2020年12月半ばから2021年1月末の1カ月強、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット市場の電力価格が高騰を続けた。通常は1日平均で8円/kWh(キロワット)程度、最高値でも20円/kWhに届かないものが、1月13日の平均価格154円/kWh、1月15日の最高値251円/kWhを記録した。いつもの20倍を超える高騰で、この1カ月強の平均単価も60円/kWhを超えた。電力自由化で先行する欧米各国では起こったことのない異常事態だった。電力価格はなぜ高騰したのか? 大手電力会社や、「新電力」と呼ばれる新規参入組の小売事業者に責任はあるのか? 複雑に折り重なった制度の不備を解説する。(※)
日本の電力システム改革とJEPX
日本の電力システム改革は1995年の発電自由化、2000年の小売り一部自由化(特別高圧契約対象のみ)でスタートした。(→「電力自由化」)
改革以前は、東京電力などの旧一般電気事業者(旧一電)が発電、送配電、小売りまですべてを引き受けていた。しかし一連の改革によって発電事業者と小売事業者がそれぞれ独立できるようになったことで、電力を売買する場が必要となり、2003年に日本で唯一、電力を取引するJEPXが誕生した(図1)。
図1 電力自由化と実際の電気の流れ
その後、小売り自由化がしだいに広がり、一般家庭が電力会社を選べるようになるのが2016年。それまでJEPX市場で取り引きされる電力は全需要の2%程度にすぎなかったが、2016年以降は急激に拡大し、昨冬(2020年末~21年初頭)の異常事態の時点では全需要の20%に達していた。
電力価格が決まる仕組み
JEPXには、電力の取り引き内容や期間に応じて、スポット取引、先渡取引、時間前取引、掲示板取引などを行う複数の市場がある。
このうちスポット取引を行う「スポット市場」が今回、電力価格高騰に直接的な影響を与えた。スポット市場は前日市場とも呼ばれ、売り手(発電事業者)と買い手(小売事業者)が翌日の電力を取り引きする市場である。
電力が安定して供給されるためには、需要量と供給量が常にバランスよくつりあっていなければならない。需給のバランスが崩れ、電力不足や供給過多が生じれば、電力供給システム全体に影響し、ブラックアウト(大規模停電)などの電力危機に陥ってしまう。このため、各電力会社は需要を可能な限り正確に見積もり、それに基づいて発電や小売りなどの供給を行うことが義務づけられている。
小売事業者の場合、毎日、電力広域的運営推進機関(OCCTO)に需要調達計画(消費者が使用する電力の需要量と、小売事業者が調達して消費者に供給するべき電力量の見積もり)を届け出る。日本の電力需給調整は30分単位で、1日を48コマに区切って行われている。小売事業者もこの48コマ分の需給計画を毎日、前日に提出する。
(※)
※2021年4月30日には、「総合資源エネルギー調査会、電力・ガス事業分科会、電力・ガス基本政策小委員会」が、昨冬の市場価格高騰に対する「検証・中間取りまとめ」を発表した。この原稿の基礎はその前に書いたため、「検証・中間取りまとめ」との齟齬がないかを確認し、一部で書き換えた部分もある。大部分は、問題なくそのままとした。(筆者)