しかし、小売事業者が前日に届け出た通りの需給を達成することは難しい。発電が一定だったとしても、需要はさまざまな要素で変動する。まして気象に左右される再生可能エネルギーは激しく変動する。変動する需要と供給の量を合致させることを「需給調整」と呼ぶ。これがうまくいかないと、需要と供給との間に差が生じる。その差分が「インバランス」と呼ばれており、小売事業者は、「不足インバランス」(供給量<需要量)が生じた場合は、「インバランス料金」を徴収され、「余剰インバランス」(供給量>需要量)が生じた場合は逆に「インバランス収入」を得る。差分がゼロになることはほぼなく、常に多少の過不足があるが、通常は数パーセントの誤差で収まる。
不足インバランスの電気、つまり小売事業者が調達できなかった分の電気は、「インバランス供給」として送配電事業者から消費者へと自動的に供給される。一方、余剰インバランスの電気は、手数料分を差し引かれるが、市場価格で送配電事業者に買い取られる。
ただしスポット市場(前日市場)で翌日の必要量を確保できない場合、その全量が不足インバランスとされる。これは差分というような生やさしいものではなく、極端なケースでは、供給している電気の全量が「インバランス供給」になってしまう小売事業者も現れる。
インバランス料金の計算方法は複雑で、正確な料金は3カ月後にならないとわからない。昨冬の電力価格高騰時、インバランス料金は高騰した小売価格の約2倍にまでなっていた(「総合資源エネルギー調査会、電力・ガス事業分科会、電力・ガス基本政策小委員会」が2021年4月30日に発表した、昨冬の市場価格高騰に対する「検証・中間取りまとめ」では、市場価格の最高値が251円に対しインバランス料金の最高値は500円となっていたことが報告されている)。JEPX市場での電気を確保できなかった小売事業者は、高騰した市場価格よりもさらに割高なインバランス料金を支払わねばならなかったのである。
もう一度整理すると、小売事業者はまず前日に、翌日のインバランスを最小限にするため、JEPXスポット市場で適切な量の電力を調達する必要がある。この市場では、供給力に余裕のある発電事業者と小売事業者(自社発電も行う小売事業者)が電力を「売り入札」し、余裕のない小売事業者(主に旧一電以外の「新電力」)が「買い入札」する。
新電力とは、広義では電力自由化に伴い新規参入した事業者のことだが、本稿ではとくに2016年の全消費者自由化後に続々誕生した小売電気事業者のことをいう。通信会社や鉄道会社など、異業種からも多くの企業が新電力として参入している。
次に当日、需要が計画値より増えたり、自社発電量が計画値に届かなかったりすると、小売事業者は時間前取引市場で電力を買い足したりすることで、インバランスの発生を少なくする。
しかし、昨冬の状況はと言うと、翌日分として売るための電気がJEPXスポット市場に並んでいなかったのだ。市場はある日、突然「売り切れ」になった。新電力をはじめとする小売事業者は、安定供給が義務だと言われても義務を果たせない状態になっていた。これは、市場で電気を調達できなかった新電力の責任だろうか、「売り切れ」状態を発生させたJEPX市場側の責任だろうか。
JEPX市場価格高騰の第一原因は「売り切れ」の放置
市場では、売り入札の供給曲線と、買い入札の需要曲線の交点が「約定価格」、つまり電力の価格になる(図2)。需要が多い時間帯の電力は多数の業者が競って買おうとするので高くなり、少ない時間帯の電力は安くなる。しかし「売り切れ」時はそんな生易しいものではない。図2右側の〈価格高騰コマ〉は「売り切れ」状態を表している。売り切れの供給曲線は最後は直線になり、新電力が競って高値買いを入れれば、市場価格は急上昇する。
図2 JEPX市場価格の決まり方
高値で買い入札しても買えなかった新電力はそのコマの需要「全量が」インバランスとみなされる。OCCTO・第57回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会が発表した「今冬の需給ひっ迫への対応について」(2021年2月15日)によると、1月8日には、通常のJEPXでの新電力の取り引き量に匹敵する2億kWhがインバランスになっている。
これはとんでもない異常事態である。それを放置し続けたJEPX市場管理者、是正すべき電力・ガス取引監視等委員会、それらの監督官庁である経済産業省、それが価格高騰のインパクトを倍加させたと言わざるを得ない。昨冬の市場価格高騰の第一の原因は「売り切れ」の発生にあることは明白だ。そして、なぜそんなことが起こったかを解明することが最も重要である。
(※)
※2021年4月30日には、「総合資源エネルギー調査会、電力・ガス事業分科会、電力・ガス基本政策小委員会」が、昨冬の市場価格高騰に対する「検証・中間取りまとめ」を発表した。この原稿の基礎はその前に書いたため、「検証・中間取りまとめ」との齟齬がないかを確認し、一部で書き換えた部分もある。大部分は、問題なくそのままとした。(筆者)