予算規模と納得感の乖離が起こる第二の理由は、「予備費」の急激な上昇によって、国民や議会がコントロールできない不透明性が高まったことである。前述の通り、予算は、財政民主主義を成り立たせるために、国会での事前承諾が必要だ。ところが、「予備費」という項目は、“柔軟な支出”を可能にするため、国会での事前承諾が必要とされていない。一応、使用後の事後承諾は国会で行うことになっているが、もし承諾が得られなかったとしても内閣に法的なペナルティは特にない。つまり、事実上の「内閣への白紙委任」であり、財政民主主義の観点からすると民意が反映されない問題のある「抜け穴」だ。
この「予備費」に、2020年度補正予算約73兆円のうち約10兆円もまわされている。この規模はリーマンショックや東日本大震災の時に組まれた1.3兆円と比べても、ケタ違いである(図1)。なお、予備費の使途の内訳はオンラインで確認できる。
第三の理由としては、コロナ対策と無関係で無駄に思える目的に予算が使われているという可能性があることである。予備費約10兆円の中で目立つものとして、約3.4兆円規模の「新型コロナウイルス対応地⽅創⽣臨時交付⾦」という長い名前の、地方自治体への補助金がある。この補助金の自治体の使途について、コロナ対策としては不適切なのではないか、と指摘する報道が相次いだ。
例えば、石川県能登町では、同交付金によって、観光促進のために観光施設に巨大なイカのモニュメントを約3000万円かけて製造している。また、北海道遠軽町では、スキー場をライトアップする事業に約180万円支出するなどしている。
このように補助金から経済振興目的で、コロナの流行抑制に直接は寄与しないものにも支出されている。経済対策も必要ではあるだろうが、「それ今必要か?」と言わざるを得ないものは多い。
予算の目的と実態が乖離するというのは、今回のコロナ対策に限った話ではない。例えば、東日本大震災復興関連の予算の23%が、復興とは直接関係のない事業に使われていたことが後から分かったこともあった。
財政民主主義を機能させるために
ここまでコロナ対策の予算規模と納得感が乖離し、財政民主主義が機能しない要因についてみてきた。このように民意との乖離があっては、もはや財政民主主義は形骸化しているといえるのではないだろうか。
財政学の教科書では、国民の代表である議会が財政についてコントロールを行うことによって「財政民主主義」が成立する、と捉えているものもある。しかし、国会議員などの“偉い人”にお任せするだけではなく、市民参加などの手段も含めて財政民主主義を国民が実感できるようにする必要があると筆者は考えている(詳細は拙稿「財政民主主義についてのサーベイと概念的多面化への試論 利害の多様性を前提とした財政民主主義へ」〔『生活経済政策』〕を参照)。
では、財政民主主義を実質化するために、私たちには何ができるのだろうか?
まずは政府や自治体による税の使い方に対して関心を持ち、ぜひ積極的に財政にまつわる情報を、実際の数値をみながら摂取してほしい。
自分の自治体が先述のコロナ対応の交付金を目的通りに使っているのか気になった人は、ぜひ「地方創生図鑑」というHPをみてみるとよい。HPの「自治体について調べる」というメニューから各自治体を地図で選んで表示すると、同交付金のうちどれだけ医療目的なのか、どれだけ経済優先なのか、というのがグラフで視覚的に把握できる。国レベルの話はよく分からなくても、自分の自治体レベルなら肌感覚で分かるものも多いだろう。例えば、東京都では、医療関連(「感染拡大防止策と医療提供体制の整備及び治療薬の開発」)に使われているのは、わずか6%であり、経済振興策(「雇用の維持と事業の継続」「次の段階としての官民を挙げた経済活動の回復」)が94%をしめる。
また、たいてい自治体が全戸に配布する広報誌には、財政についての報告がある。多くの人がポストからゴミ箱にそのまま投げ捨てているかもしれないが、次はしっかり目を通してはどうだろう。
もっとおすすめなのは、自治体の議事録である。ある程度の規模以上の自治体であれば、検索用のデータベースがあるので、関心のあるキーワードなどで調べてみてほしい。この地区は再開発してほしくない、程度の要望は誰にだってあるだろう。議事録を読むと「こんなに細かく予算の適正性を追及しているのか……」となることもあれば、「全然追及していないじゃないか……」となることもあるだろう。また、選挙の際に発表されるマニフェストで分からない部分の議員の実際の立ち位置も分かるので、選挙の際にも役立つだろう。
税金に口を出す権利は、みんなにある
では、税の使い方を知ったうえで何ができるか。請願、陳情、デモ、SNS上での発信なども手段の一つだ。だが、もっと簡単な手段の一つに、オンライン上での署名運動がある。既に知っている人も多いとは思うが、Change.orgはオンラインで署名活動への参加が可能なプラットフォームだ。最近でも「コロナで困窮する子どもたちを救おう!プロジェクト」や、ミニシアターへの経済支援など、コロナ対策に関係する財政政策についての署名が行われ、部分的に政策に反映されるなどしている。
また、現在も五輪の開催の是非についても署名が集められ、反対派の署名は既に40万筆を超えている。国政レベルだけでなく、地方レベルでも同サイトは有用だ。コロナ関連ではないが、新潟の小学1年生(!)が立ち上げた地元へのスケートボード場建設をもとめる署名も、1万8000筆を超えている。こうした社会運動自体に日本では抵抗感が強い、とも言われているが、デモなどと比べるとネット上の署名運動は比較的ハードルが低いようである。