草の根の環境運動活動家に贈られ、「環境分野のノーベル賞」とも言われるゴールドマン環境賞の2021年の受賞者に選ばれた平田仁子(ひらた・きみこ)さん。日本人の受賞としては3回目で23年ぶり、日本人女性としては初の快挙だ。平田さんは、気候変動に取り組むNGO「気候ネットワーク」で長年活動を続け、現在は同団体の国際ディレクターである。今年8月にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書の一部が先行して公表され、世界的に温暖化への危機感が高まっている。ところが日本は、火力発電の中でもCO2排出が多い石炭火力への依存が高く、国際社会から批判されてきた。平田さんに、温暖化対策をめぐる日本の課題について聞いた。
――このたびはゴールドマン環境賞受賞おめでとうございます。授賞理由は、平田さんたちの活動により日本国内の13基の石炭火力発電所の計画が中止となり、16億トン以上の二酸化炭素(CO2)排出を食い止めたことでした。まずは、受賞のご感想を伺えますでしょうか。
日本では2012年以降計画された50基の石炭火力発電所の計画・建設のうち、ゴールドマン環境賞受賞が決定した2020年12月時点で13基、その後4基追加され、計17基が計画中止になりました。しかし、すでに20基以上は、完成して稼働しており、環境的には大変深刻な状況が続いています。福島第一原発事故以降、特にここ数年、猛烈な勢いで石炭火力発電所の建設が推し進められてきました。石炭火力の建設計画中止を求める活動は、私たち「気候ネットワーク」だけではなく、地域団体や住民の皆さん、サポートしてくださる国内外の法律家や専門家、NGOなどの力が合わさって大きくなってきました。ところが、今まで日本では、17基が止まったことについて、私たちNGOや市民の活動によるものだとは、あまり認められてきませんでした。今回の受賞で「脱石炭」の市民の動きがあることに光をあててもらったことは大変有り難く思います。賞をいただいたことで、大手メディアも私たち市民の動きに目を向けてくれるようになりました。今回の受賞は、一緒に粘り強く取り組んできた皆に与えられた賞にほかなりません。
――今年8月にIPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)の第6次報告書のうち、第1作業部会の報告が先行して公表されました。この報告書では、温室効果ガスの排出抑制に応じた5つのシナリオごとに世界の平均気温上昇を評価しています。10年ごとの酷暑の発生率は、現在から1.5度上昇で4.1倍、2度上昇で5.6倍、4度上昇で9.4倍となるなど、かなり具体的に書かれていることが話題となりました。平田さんは今回の報告書をどう受け止めましたか?
第6次報告書では、気温の上昇によって熱波や大雨、洪水が増えていると、温暖化と異常気象の関係を強調しています。そのことは過去の研究の蓄積によって証明されているからです。さらに、この報告書には、地域ごとに顕著な温暖化の影響が見られ、これらは自然現象だけではまったく説明がつかないと精緻に検証されているのです
温暖化の進行は、ここ数年でステージが上がっています。グリーンランドの氷床や南極の氷などが、想定を超える規模で解け始めており、科学者たちからは、ティッピング・ポイント(それを超えると不可逆的な変化が起きる臨界点)を超えてしまったのではないか、と強い危機感が示されています。人類のお尻に火がついている状況という厳しい現実に、恐ろしさを感じます。
2014年にNHKが制作し、2019年に環境省がその新作版を制作した「2100年 未来の天気予報」という動画があります。動画では、温暖化が進行した2100年の天気予報を想定して気象がどうなるかを示しており、日本各地で気温が40度超えになるとされていました。しかし、すでに近年、日本各地で40度超えが記録されていて、この動画は80年後のニュースどころか今の状況をそのまま表しているような内容です。もう私たちは危機に突入しているのですから、単純に「温暖化」というのではなく「気候危機」という言葉を使っていくべきでしょう。
気象庁も深刻な豪雨被害と温暖化との関連性を指摘するようになってきました。報道においても、今起きている現実の被害として、気候危機の影響についてもっと報じるべきだと思います。
――そもそも、日本ではメディアも温暖化に対する危機感が希薄だと感じます。気候危機に対する認識を改めないといけないということですね。