とあるエネルギー関連企業では、商社などが石炭事業から撤退し、国内でも石炭火力利用が疑問視され始めている中、本来であれば、閉鎖するべき老朽石炭火力発電施設を、政府と足並みをそろえて、維持し続けようとしています。政府は、石炭や天然ガスから水素やアンモニアを製造し、新たなエネルギー源として活用する政策を推進しているのですが、水素やアンモニアをつくる過程でCO2が出てしまいます。そのため、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)といって、CO2を回収して地中に貯留したり再利用したりしようとしています。それには莫大なコストがかかるのです。国内には、CO2を貯留する場所はほとんどないと考えられますので、海外に運んで貯留してもらうのか、またどのようにCO2を利用することができるのか、などについてはまったく答えが出ていません。結局、無駄にお金がかかるだけでしょう。水素やアンモニアの活用も、石炭やLNGなど化石燃料からではなく、再エネを使ってつくる「グリーン水素」「グリーンアンモニア」ならまだ良いのですが……。
――なぜ、政府も企業も発想を変えられないのでしょう?
鉄、電力、自動車、プラントメーカーといった、いわゆる「重厚長大」の産業が日本経済を支える基幹産業だという前提があり、これらの企業の一心同体の連合体の利益を守ることを優先しているからなのでしょう。再エネを事業の中心にすると、利益構造は変わり、個々の企業はそれで利益を上げるかもしれませんが、これまで自分たちが守ってきた企業連合体としての利益は失うことになる。そのことに抵抗しているのだと思います。
政府の審議会などでも、利益団体やそれに同調する専門家、官僚、政治家たちの毎度同じようなメンバーが、これまでの路線を改めないでエネルギー戦略を議論しているのです。そうこうしている間に、再エネ技術では中国や欧州に負け、電気自動車の普及でも大幅に遅れてしまっている。
エネ基は経産省のものですが、環境省の地球温暖化対策計画案(温対計画)も、「産業界の自主的な取組」「ライフスタイルの転換」という、この間ずっと使われてきた言葉が並んでいて、本来最優先でやるべきエネルギーの転換は、政策の柱の中でも最後の扱い。この構図は1990年代の京都議定書の頃から変わっていません。
米国のバイデン大統領も、元々はそれほど気候危機への対策に熱心ではありませんでした。でも、米国の若者たちが声を上げ、対策を強く求めるようになり、若者たちの声を背景に、バーニー・サンダース上院議員ら気候危機対策に熱心な議員たちの政策を受け入れていった経緯があります。
日本でもやはり、市民が声を上げることが重要だと思います。日本の若者たちは米国や欧州に及ぶほどのスケールで活動しているわけではありませんが、それでも各地で声を上げている若者たちが増えてきています。点と点を結ぶようなかたちで連帯していくことで、大きな力になるのかもしれません。もちろん、大人たちの責任も大きい。これからの10年が本当に大切なので、諦めないで頑張っていきたいと思います。