筆者が研究対象とする、永世中立国・半直接民主制のスイスでは、軍事のような専門的なことについても、国民の意思が直接反映される。2019年には、最大30機の戦闘機購入に約60億フラン(当時のレートで約0.66兆円)をかけることが議会で決まり、翌2020年に、国民投票でその是非が問われた。軍事費の規模については、スイスは1990年から2019年の30年間で、GDP比1.34%から0.67%へと縮小していた。ところが、ロシア・ウクライナ情勢の緊迫により、2030年までに対GDP比1%水準まで引き上げることが2022年に決定されたところである。
無論、スイスと日本の様々な条件の違いは考慮しなくてはならない。しかし、政府主導でマクロ・バジェッティング的に軍事費を高くすることが安全保障に繋がり、そこで国民の意思を度外視することが平和に本当に結びつくのだろうか?
選挙で防衛増税を争点化するべきだ、とする意見も野党からあがる。しかしながら、検討プロセスが不透明なままでは、もし選挙で与党が勝ったとしても、本当に防衛増税についての「民意」を得たと言えるのだろうか。政府はできる限り透明性を高め、国民が「理解」できるように議論の土台を提供すべきだ。そして、財政の数字に基づき、国民が議論や異論を唱えだすことは、財政民主主義を私たちの手元に捉え直す第一歩である。
(*1)
正確には、2023年度の当初予算は114兆円、2022年の名目GDPはIMFの予測値で555兆円
(*2)
正確には、2027年度に、現在の年間約5.2兆円から9兆円程度に引き上げようとしている