――国による子育て支援では、どのような政策が効果的なのでしょうか?
国の子育て・家族支援予算である「家族関係社会支出」の対GDP比(2019年)は、OECD平均が2.29%なのに対して日本は1.95%であり、諸外国と比べてとても少ないのが現状です。まずは、子育て予算をもっと増やす必要があります。
子育て支援政策は、児童手当や税額控除などの「現金給付」と、保育サービスの提供などの「現物給付」の二つに大きく分けられます。
「現金給付」政策の効果を考える際に、経済学でよく参照されるのが、〈子どもの「量(人数)」と「質(教育費などの子どもへの支出等)」の間には相反関係がある〉というゲイリー・ベッカーの理論です。つまり、子どもの数が増えると一人の子どもにかけられるお金や時間が減ってしまい、反対に一人の子どもに対してお金や時間をかけると多くの子どもを持つことができないということです。
ベッカーによれば、先進国において「現金給付」政策というのは、子どもの「質」を高めることにはつながるかもしれませんが、「量」を増やすことには必ずしもつながりません。出生率を上げるためには、「現金給付」よりも「現物給付」の方が、経済学的には効果的だと考えられます。
――具体的にはどのような政策を進めるべきでしょうか?
「現物給付」として特に推進すべき政策は、保育所のさらなる拡充です。日本では、この10年ほどで保育所が大幅に整備されるようになり、待機児童の問題は改善されました。ところが、東京などの都市部では希望した保育園に行けるわけではなかったりして、必ずしも使い勝手が良いとは言えません。
また、保育所というのは、基本的に「親が働いていて世話をしてくれる大人がいない子ども」を対象にしているという位置づけになっています。そうなると、親が専業主婦などの場合、0~2歳の子どもを保育園に預けることができません。親がフルタイムで働いていなくても、あるいは専業主婦であっても使えるようにする。保育所を幼児教育施設や子育て支援施設という位置づけにして、使い勝手を向上させていくことが、今後の子育て支援政策としては望ましいと思います。
――保育サービスを拡充することが、出生率アップにつながるのでしょうか?
保育所が整備されていないときには、収入のある女性ほど子どもを持たない傾向がありました。以前は女性の就労と出生率は相反関係にあったのです。ところが保育所が充実し、廉価で利用することができれば、子どもを持つ機会費用を抑えることができます。それによって女性の就労と出生率との相反関係は弱まり、むしろ女性の就労が出生率にプラスの影響を与えるようになってきているのです。
少子化対策においては、女性の就業を推し進めて今以上に子育てと両立しやすい社会にするということが重要です。そのためには、働き方改革によって家事育児の負担が女性に集中している現状を改める必要があります。
日本は、長時間労働が多く、男性は子どもがいても家に帰って子どもの面倒を見る時間や家事をする時間がとても少ないと言われています。ところが、国際比較で見ると、男性の家事・育児負担の割合が高い国ほど、出生率は高くなっているのです。
――日本では、男性の育児休業もなかなか取得しにくいとも言われます。
実は、制度という点から見れば、日本の男性の育休制度は世界的にかなり充実しています。2019年にユニセフが、育休日数×給付金で算出した育児休業制度のランキングでは、OECDとEU41カ国中、日本が第1位なんです。ところが、日本の男性は、キャリアへの悪影響や同僚や上司の目を気にして、なかなか育休取得が進みません。2021年の女性の育休取得率が85.1%であるのに対して、男性は14.0%にとどまっています。