地域のSSEを支える金融業務協同組合=COOP57
全国展開で銀行業務を行う倫理銀行と異なり、あくまでも地域のSSEを支え、拡大するための融資を行うのが、倫理金融の「金融業務協同組合=COOP57」だ。1995年にバルセロナで設立され、今、7つの州で事業を行っている。
COOP57は、信用金庫や信用組合と同様に、それぞれの地域に根ざす活動をしている。違うのは、融資対象が、あくまでもSSEの事業組織のプロジェクトで、個人ではない点だ。SSEの事業組織は、地域のCOOP57に最低1000ユーロ(約17万円)の出資を行い、組合員となって、必要なときに融資を受ける。つまり、地域でSSEを創る者たちが、互いに資金協力することで、SSEを活性化しようというのだ。
加えて、個人も最低300ユーロ預金することで「協力組合員」となり、その動きを応援することができる。ただ、銀行と違って、口座預金はあくまでも組合員組織への融資を支えるためのものとなる。
2008年に設立された「COOP57アンダルシア」は、州都セビリアに事務所を置き、地元の約100の事業組織と300人以上の協力組合員で構成されている。
「バルセロナのCOOP57の活動を知って、自分たちも地域での困り事を解決するために設立しようと考えました」
そう話すのは、COOP57アンダルシアの技術委員会書記、ホセマヌエル・ベタンソス(44)だ。労働者協同組合の組合員として働き、COOP57の仕事はボランティアで行っている。
「自分のお金がどう使われるのかをこの目で確かめようと、引き受けたのです」
「COOP57アンダルシア」の技術委員会書記、ホセマヌエル・ベタンソス。自身が勤める協同組合のオフィス内にCOOP57アンダルシアも間借りしている。撮影:篠田有史
COOP57アンダルシアは、ホセマヌエルが所属する「技術委員会」と「社会委員会」の2つの委員会と、「地域理事会」によって運営されている。技術委員会(4人)は、融資を希望する事業組織の事業・返済計画について審査し、地域理事会(組合員組織の代表7人と協力組合員1人)の承認を得て、融資を決定する。社会委員会(組合員組織の代表と協力組合員、計8人)は、融資したプロジェクトが社会・環境面でポジティブな影響をもたらしているかどうかを評価。これは、全国のCOOP57に共通する仕組みだ。
この仕組みを通じて、COOP57は、融資総額を毎年増やしてきた。2024年度は総額およそ2670万ユーロ(約46億円)の融資を行い、組合員も新たに400以上(内89は事業組織)加わった。
普通の金融機関は、資金回収にリスクを伴う小さな事業組織・プロジェクトにはなかなか融資をしないが、COOP57は柔軟に対応する。仮に融資先が定期的な返済は困難になった場合でも、1回の返済額を減らす、返済を一時保留して業績が回復してから再開するなど、個々のケースに応じて相談に乗る。
海外から安く輸入される商品に押されて業績が悪化し、再生のために、「COOP57アンダルシア」に融資を求めた「マリナレーダ農業協同組合」の野菜瓶詰工場。撮影:篠田有史
「利子の支払いが不可能となったときには、元本のみの返済で合意することもあります。それも難しいと言われたら、『では、いくらなら払えます?』と聞くことに。とにかく話し合い、理解し合うことが大切です」と、ホセマヌエル。むろん、融資を受ける側は、支払い不能になったときのための「社会的保証人」を確保する義務を負う。ただし、保証人は1人ではなく、1000ユーロの保証人を10人集める、といったかたちをとる。そうやってリスクの分散を図るとともに、その融資依頼者の信用を見極めるのだ。
「COOP57アンダルシア」の融資を受けた「マリナレーダ農業協同組合」の理事長、フアン・プリエート(88)。「協同組合は、村人の暮らしの原動力。COOP57は、返済能力うんぬんよりも、そういう側面にこそ融資するところが、すばらしい」と話す。撮影:篠田有史
世界を変える
SDGs達成を目指す世界では、近年、金融業における社会的インパクト、つまり社会に貢献する金融業のあり方=ソーシャルファイナンスに、関心が集まりつつあるという。欧州の倫理金融は、その中でも特に「人の暮らしと環境を軸に持続可能な世界を構築する」というSSEの理念を推進するものだ。そして、それは国によって政策に差があるとはいえ、EU(欧州連合)全体の共通目標でもある。
日本ではまだ、NPOバンクが消費者金融と同じ貸金業法の下に置かれるほど、倫理金融への認識と理解が低い。だが、社会における格差の拡大や気候危機などの影響がますます深刻化する現在、未来を見据えたお金の使い方=倫理金融を広め、SSEを拡大することは、日本でも求められている。