驚くべき公費浪費の現実
私はかつて、厚生労働省の法人で働いていた。そこでは湯水のように公金浪費が行われていた。労働事務次官から天下った理事長は、「海外事情の視察」と称して、毎月のように公費で海外旅行をした。飛行機はファーストクラス、ホテルは5つ星のスイートルーム、観光、グルメ、ショッピングざんまい。しかも、お気に入りの女性を「国際部長」に据えてしばしば彼女を伴った。1回の旅行に数百万円をかけ、7年の在任中に78カ国を巡り、旅費の総額は3億円にのぼった。
私はこうした実態を週刊誌に内部告発して職を辞し、フリージャーナリストの道を歩み始めることになった。
民主党は「天下り根絶」「天下りのいる法人に流れる年12兆円の国費を半分に削る」と公約して政権交代を果たした。09年の事業仕分けは国の事業が主眼であったが、その下請け先である独立行政法人や公益法人の非効率な体質にも注目が集まった。そこで政府は、10年4月と5月に改めて、独立行政法人と公益法人の事業仕分けを行ったのである。
私は仕分け人の尾立源幸参議院議員の下で準備を手伝い、仕分け当日はジャーナリストとしてテレビや週刊誌で報じた。
予算が食い物にされている
10年4月の独法仕分けでは、理化学研究所(理研)などの実態が明らかになった。理研は職員3300人で国から年に900億円をもらい、スーパーコンピューター開発や脳科学の研究などを行っている。しかし、「税金の使い道を知りたい」と傍聴に来ていた30代の主婦は、仕分け人の尾立議員の質問に、「えっ」と驚きの声を漏らした。
「理研では、職員が妻を非常勤の『アシスタント』として雇い上げており、その月給が50万円というが本当か」
理研側は認めた。「そういう人もいます。97名のアシスタントの内、6名が配偶者です」
職場結婚も2人いるが、4人は配偶者をわざわざ雇い上げたのだという。
「出勤は週の半分で、後は家で働くという勤務形態の者もいます」(理研)
ハローワークによれば、事務職の平均時給は都心でも900円台で、求職倍率は高い。傍聴者が怒りの声を上げるのももっともだ。また、今、若手の研究者は任期制の不安定な職しか得られないことが社会問題になっているが、文部科学省の役人は年俸2000万円近い高給で理研など国の研究機関に天下りの職を得る。科学予算が役人らに食い物にされ、研究にうまく回らないのだ。
枝野幸男行政刷新相(当時)は、「こういう発想ではガバナンスを任せられない」と研究体制の見直しを命じた。
宝くじは天下りの夢をかなえる?
同年5月の公益法人仕分けの目玉は、宝くじのからくりだった。年間売り上げ1兆円のうち、当選金に回るのは半分以下。残りは総務省の天下り法人に配られている。そのひとつ、「自治総合センター」を仕分け人が訪れた。首相官邸を見下ろす一等地の高層ビル、広さ500坪ほどの広いオフィスに、職員が15人しかいない。聞けば、この事務所の家賃は月1500万円近い。職員1人あたり100万円の計算だ。机の上にはスポーツ新聞が置いてある。仕分け人らが訪れている間、事務所には来客1人、電話一本もなかった。それで天下りの理事長の年俸は2000万円。宝くじは、庶民の夢でなく天下りの夢をかなえるためにあるらしい。仕分け人の寺田学衆院議員はこう告げた。
「天下りの高額給与、豪華なオフィス、無駄な宣伝広報事業などの問題が解決されるまでは、総務大臣は宝くじの販売を認めるべきではない」
「行革やるやる」ショーとも批判されて
事業仕分けは、闇に隠れていた税金の使われ方を明かしたこと、議論を公開して政治を国民に身近なものにした点で大きな功績がある。ただし、無駄削減の道は険しい。09年の事業仕分けでは、削減目標額が3兆円と言われながら、実際は6900億円にとどまった。事業仕分けに法的な強制力がないため、評決を役所が守らないのだ。
10年の仕分けでは、独法仕分けで旧国鉄清算事業団の土地売却益1兆3500億円の国庫返納を求めたほかは、公益法人の「廃止」とした事業額は合計1000億円に満たなかった。しかもそれが実現する見込みは薄い。事業仕分け終了から1カ月後、仕分けられた法人にその後を聞いた。
「職員の家族を雇っている件など、とくに変えてはいない。国民の皆様の意見を聞いて今後対応していく」(理研を所管する文部科学省)
「宝くじはこのまま販売を続ける。仕分けの評決は今後検討していく」(宝くじを管轄する総務省)
事業仕分けはかけ声だけの「行革やるやる」ショーとも批判されるようになった。菅直人政権では、増税の前にまず行革を断行できるかが課題だ。