憲法と国民の声を無視する現政権
まず初めに、今年(2015年)の6月4日、衆議院憲法審査会でも発言したように、安保関連法については、明らかに憲法違反であるということを改めて申し上げておきたいと思います。集団的自衛権を持つことは、海外派兵および海外での他国の武力行使を禁止する「専守防衛」を逸脱したもので、この法律は「平和」という文字が入ってはいても、日本を戦争に向かわせる法以外のなにものでもありません。
これに対して安倍政権は、憲法9条およびこれまで自衛隊の海外派兵を禁止してきた従来の憲法解釈に矛盾しないと言い張ってきました。 また、すでにこの法案については2014年12月の衆議院総選挙時の自由民主党のマニフェストにも載せており、我々は選挙で国民の信任を得てこの法案を通したとも言っています 。その後の世論の圧倒的な反対に対しても、説明責任を果たすことなく、「今後、理解を深めるよう丁寧に説明していく」と述べるのみで、いまだ実行には至っていません。
さらに、参議院での野党議員の質問に対しては、担当大臣が回答できなかったり、内容が変わったりと失態を繰り返しました。これは、説明する能力がないこともありますし、答えたくない内容には答えないと当初から決めていたのだと思います。言論の府としての議会を無視したやり方です。
このように、安保関連法は内容だけではなく、手続き上でも違憲性があるのです。
しかし、安保関連法は可決、成立し、9月30日に公布されてしまいました。その理由は、与党が圧倒的な数の議席を持っているということに尽きます。また、国民の反対の声に怯まなかったのには、安倍晋三首相の、戦後レジームからの脱却という歴史的使命感と、この夏には法案を通すというアメリカとの約束が前提にあります。つまり、はなから国民には目が向いていなかったのです。
「安保関連法」で高まる日本の危機
この「戦争法案」が通ったことで、私が危惧しているのは、第一に、自衛隊がアメリカ軍の二軍として戦場の矢面に立たされることです。後方支援だけといっても、状況が刻々と変わっていく戦場ではありえません。これまで、人を殺したことのなかった自衛隊員が、敵とはいえ人殺しになってしまう可能性があります。また世界は今、キリスト教とイスラム教との対立構造にあります。宗教だけで語れるものではないという面があるものの、こうした対立の中、これまでイスラム教徒にとって、日本と日本人は「感じのいい国」「感じのいい人たち」という印象だったはずです。しかし法案成立で、敵国アメリカの友、つまり「感じ悪い国」になってしまい、友好的だった中東諸国やイスラム教徒との関係も悪化することになるでしょう。その国民である日本人もまた敵視され、海外で貢献しているPKOやNGOで働く人々がテロの標的になることが懸念されます。
これまでは「日本は金しか出さない」などと揶揄されてきました。しかし自衛隊を派遣したからといって、戦費協力が減額になるわけではありません。紛争が拡大すれば、自国の戦費を抑えたいアメリカは、当然日本にこれまで通り、いやこれまで以上の額を要求をしてきます。そうなれば日本は、アメリカ同様「戦費破産国」になってしまう可能性もあります。
多くの国民が目覚めはじめた
私は、これまで政治家や弁護士などの依頼に応え、数多くの講演会や勉強会に参加してきました。憲法審査会以降は、これに加え、一般の方々からの依頼が増えています。各会場では、国民の危機感が高まってきることをひしひしと感じます。9月5日には、山口県長門市のお寺のネットワークから依頼があり、講演会を行いました。安倍首相のお膝下ということで、人が集まるのだろうかと思いましたが、予想を反して多くの参加者があり、拍手と激励の声をいただきました。会場に行く前、安倍首相の祖父である安倍寛(かん)さんのお墓参りをしたおかげかもしれません。安倍寛さんは、戦前に大政翼賛会非推薦で当選し、戦争に反対だったことから 24時間特高警察に監視されていたというエピソードを持つ大変偉い方です。当時、もう一人の祖父である岸信介氏が戦争推進責任者の一人だったことを考えると因果を感じます。
私が全国各地で行っている講演は、立憲主義を無視する政府に対して、国民の皆さんがその実態を把握し、判断するための、いわば啓蒙活動の一環です。講演に足を運んだ人の中には、「これまで憲法や安保法案をきちんと読んだことがなかったけれど、読んで考えるようになった」という声も多く、国民が政治に目覚め始めたことを実感しています。
今回の法案成立でがっかりしている人が多いのも事実です。しかし、ここで終わったなどと考える必要はありません。
私は、政府がこの法案を提出した直後から、与党の国会議員の数と、安倍首相の強硬な態度を鑑みれば、どんな形にせよ今国会で法案を通すに決まっていると発言してきました。ですから想定内のことであり、今さら気落ちすることはないのです。日本は独裁国家ではありませんから、一度通ってしまった法案も、それが間違っているのなら廃止すればいいのです。
まず野党共闘で参議院選挙を闘う
ここで忘れてならないのは、安倍政権を作ったのは我々国民であるということです。2014年の衆議院総選挙でアベノミクスなるものに目を奪われ、安保法案の重要性にはあまり目が向けられていませんでした。しかしこれはチャンスでもあります。今や多くの国民が憲法や民主主義、そして立憲主義に関心を持ち、集団的自衛権はいらないと声を上げているからです。
確かに自公政権は7割の議席を保持していますが、その得票数はわずか3割という現実があります。つまり、次の選挙で、野党が4割の得票を得て8割の議席を取ればいいのです。現行の憲法を無視する政府に「NO」を突きつける、この一点で野党が共闘すればいいのです。
特に一人区での共闘が重要です。次回の参議院議員選挙では、一人区が31から32に増えます。これに関連し、読売新聞(9月22日付)が、もし野党共闘が実現すれば、一人区の7選挙区で与野党が逆転し、さらに3選挙区で接戦となるとの試算を伝えました。民主党、維新の党、共産党、社民党、生活の党の5野党の党首クラスが集まり、きちんと票の計算をして、各一人区でこの人なら当選できると思える統一候補者を出せば、読売新聞の試算以上の結果が出るに違いありません。
安保法案成立後、共産党の志位和夫委員長がいちはやく、同法の廃止を目的とする「国民連合政府」をつくろうと声明を発表しました。私はこれを高く評価しています。民主党や維新の党内で拒否感が出ているとの報道もありますが、安倍さんという共通の巨大な敵がいると考えれば、私は野党共闘は実現すると思います。もし、自分の党を躍進させたいのなら、比例区で頑張ればいいのです。そこで議席を獲得できないとしたら、責任は各党にあるわけで、我が党は国民の信任を得られていないと反省しなければいけません。
100人訴訟、弁護団は1000人
参議院選までに、国民は安保関連法のことを忘れるという与党の思惑があるとも聞きますが、国会議事堂前から全国各地に広まったデモは、今も続けられています。