男性議員が圧倒的に多い組織で認められるには、女性も男性化して男性視線で物事を進めないと権力闘争に負けてしまいます。下手に女性の視点で発言すると、足元をすくわれることにもなりかねません。しかし、男性化した女性議員を積極的に応援したい女性有権者はどのくらいいるでしょうか。
また現政権では、稲田朋美防衛大臣、高市早苗総務大臣、丸川珠代東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会担当国務大臣と、女性が3人大臣に起用されています。しかし、国民に不人気な課題や反発が強い課題を、女性大臣に押し付けているようにも見えます。そして、世論の風当たりが強くなると、「だから、女は政治には向かない」というネガティブ・キャンペーンが展開されかねません。これまで女性議員の進出が阻まれてきたのには、こうした背景があるのではないでしょうか。
男性化した、いわゆるタカ派の女性大臣や女性議員が増えると、有識者、特に女性は「女性議員が増えても結局何も変わらない。下手をすれば悪くなる」と考えるかもしれません。そうなると、女性候補には投票しない、あるいは投票にすら行かないとなり、女性議員数が増えないという悪循環につながってしまいます。
過大な期待をせず、持続することが重要
研究者ということもあり、これまで私はクオータに関してたびたび取材を受けてきました。その際、「女性の議員が増えるメリットは?」と必ず聞かれます。逆に「今のように男性議員が圧倒的に多いメリットはなんですか?」と聞きたくなります。バブル期までは、同じ方向に向かって効率的に物事を進めることで、日本は成功した面がありました。男性だけで意思決定してきたメリットは効率性だったかもしれません。しかし現在のように、人口減少など新しい局面に入った以上は、様々な価値観と意見を持つ人たちがいる事実を踏まえて、丁寧にコンセンサスを作る政治が必要です。
富山市議会の議員辞職騒動を見ていると、民主主義という観点を忘れ、同質の人たちだけで意思決定をしてきた結果がこれですよ、と言いたいです。
日本で、女性参政権が実現して今年で70周年になりますが、日本はいわば「オールドデモクラシー」の国です。他方、独裁政権から民主化を勝ち取るなどした新興民主国、「ニューデモクラシー」の国々では、民主化のタイミングが1980年~90年代だったこともあり、女性議員の進出自体が民主化の指標と捉えられています。
先ほど、女性は政治にかかわる時間が取りにくいと言いましたが、今はSNSという手段があります。集会などに参加できなくても動画やツイッター、ブログなどでどんなことが話し合われたかを知ることができます。ですから、候補者を支援する女性の層は厚くなってきていると思います。クオータが導入され、女性が当選する確率が高くなる仕組みが整えば、手を挙げる人も増えていくはずです。ここで、女性議員が市民の女性たちとしっかりとつながり、彼女たちの様々な声を代弁していくことができれば、日本の民主主義もオールドデモクラシーにふさわしく深化していけるでしょう。
女性が結果的に排除されてきた政治構造を考えれば、すぐに女性議員を増やすことは簡単ではないとわかります。クオータを導入し女性議員が増えた国も、導入までには抵抗もあり、導入後の効果もいろいろです。ですから、Qの会の結成から推進法の提出まで4年足らずというのは、スピーディーだと言えます。推進法には強制力はありませんが、法律ができることには大きな意義があり、一歩一歩確実に、持続的に歩みを進めていくことが大切です。
女性に限らず、これまで政治の世界でマイノリティーであった人々の声を政治の場に届けることは、未来の日本をどう描いていくかということと密接につながっています。多種多様な意見を議会に反映し、民主主義を実践するためにもクオータの導入は必須条件です。
ぜひ皆さんも、この機会に関心を持って、考えていただきたいと思います。