生産年齢人口の減少による労働力の大幅な不足や技術・技能の継承はすでに問題化しているが、今後これらはさらに深刻なものとなるという。
人口減少によって国全体で消費する総カロリー量が減るので、食料やエネルギー問題から免れ得るのかといえば、そうでもない。今後の世界はますますの人口爆発によって、食料・エネルギーの確保がさらに難しくなる。食料は引き続き大幅な輸入超過となり、エネルギーの輸入も増大。貿易収支・経常収支が悪化する一方で、農林水産業従事者の高齢化が進む。さらには地域、時期により水資源が不足しており、くわえて気候変動により気温上昇や環境変化も生じるため、安定的な水利用が危うくなるのだ。
もちろん人口減少が悪い結果だけをもたらすわけではない。プラスの側面として、都市化が進んだ地域では、空間的なゆとりが生まれたり、若い世代を中心に、地方の良さや可能性に着目する動きもみられる。
教育と医療の無償化が豊かさと成長をもたらす
人口が増えないなかで「豊かさ」と「成長」を今後も持続させていくためにまずすべきなのは、今すでに存在している人口と今後の人口への「投資」であろう。高齢人口の生涯学習などによるさらなる活用と、若者人口への手厚く積極的な教育等の支援によって、「質」を確保する。それによって、人口減少はほぼ必然的な趨勢として受け止めつつも、国民の幸福の増進及び経済的な「一定の成長」を達成した上で、「豊かさ」を実感できる国を築いていくことができる。
今すでにいる人口を活かすためには、日本政府は他の先進諸国を見習って、早急に大学の無償化を進めるとともに、若者のみならず学びたい大人へも無償化枠を広げるべきである。これによって、質の高い労働力の確保が可能となる。
もちろんこうした無償化のためには、税率も上げる必要がある。デンマークでは消費税率25%、国民負担率約70%とかなりの高納税国だが、教育費用は無料である。それ以外にも医療費も出産費用も無料である。日本でも健康保険で出産一時金が最低42万円給付される。近年では出産に際してお祝い金で数十万円を給付する自治体も増えてきたが、現状では多くて100万円ほどの出費がかかり、その後の育児費用もかさむため、産みたくても産めない家庭が多いのも現実である。教育と医療の無償化が、日本に住む人々のQOLを底上げし、生産性の高い国づくりへと結びつく。そして、当然ながら出産の無償化は、杉田議員が説くところの人口の再生産にも寄与することだろう。
クリエイティブで平和な国へ
それでも人口の再生産が鈍くなっていく先進国も多い。そのなかで描きうる国の姿とはいったいどういったものだろうか。
かつて老子は小国寡民という国の姿を理想として掲げた。これをうけて劇作家の山崎正和は日本の将来像として、人口が1億ないし9000万人くらいの「寡民小国」を描いた。山崎が想定したのは、国民が安定してクリエイティブに個性的に暮らせる平和な国としての日本である。この人口の規模は、国交省が描いた2050年の日本の人口予測とも合致するものだ。
こうした「豊かさ」を今後も実感し続けられる国づくりを進めていく上でまず必要なのは、人口をやみくもに増やすことが国家の生産性につながるといった、時代遅れの考え方から自由になることなのである。