日本を含めアジア諸国では、内外政策でイデオロギー対立をやめ、経済発展に力を傾注した。中国の飛躍的発展だけでなく、アジアが世界の成長センターになる基礎はこうしてつくられたのである。
89年の冷戦終結はそれを加速させた。共産主義の防波堤だった韓国、台湾、ASEAN諸国にとって、経済的に台頭する中国と安定した関係を築くことが発展の必要条件になった。もちろん日本にとっても。「敵」の存在を不可欠とする「サンフランシスコ体制」の同盟構造はこうして崩れていったのである。米国は、安全保障面でも一極支配を維持するのが困難になった。
南沙紛争で同盟再構築
「同盟」のほころびを繕うため、米国は南沙諸島の領有権で中国と対立するフィリピン、ベトナム、インドネシア、マレーシアなどと新たな協力関係を模索し、中国の影響力拡大に対抗しようとした。新たな同盟の再構築である。
米歴代政権は従来、南沙問題については「中立と不介入」の方針だった。態度を変えたのがヒラリー・クリントン国務長官。2010年7月のASEANアジア地域フォーラム(ARF)で「米国は航行の自由と南シナ海での国際法の順守について国益を有している」と、積極関与に転換したのである。
「オブザーバー」から「関与者」に変わることによって、南シナ海問題は米中駆け引きの「最前線」になる。中国の軍事的台頭にブレーキをかけなければ、地域における米国の支配が失われるという焦りでもある。
その後、米政府は15年10月から「航行の自由作戦」を開始した。イージス駆逐艦を中国の人工島の12カイリ(22キロ)内を航行させ、メディアは「高まる米中軍事衝突の危機」と、米中軍事衝突の危機を煽った。
しかし「作戦」の狙いは地域における米国の軍事的優位を演出することである。中国の埋め立てを黙認すれば、米国の影響力後退を同盟国から見透かされてしまうからだ。一部メディアが煽り立てるような、中国との衝突を目的にした軍事行動ではない。中国側も衝突回避のために自制している。
外交で脅威はなくせる
「中国との関係改善こそ日本がとりうる唯一の選択肢です。アジアインフラ投資銀行(AIIB)に日本は参加すべきだし、軍事力を強化して対抗していくことは賢明な策とは言えません」(「朝日新聞」18年8月22日朝刊)。こう指摘するのは、中国に批判的な米国際政治学者イアン・ブレマーである。これは、軍事力で中国に対抗しようとする安倍政権の安保政策を「愚策」と批判したに等しい。
「北朝鮮の核の脅威はもうない」。トランプは18年6月の米朝首脳会談の後、こうツイートした。彼の外交政策は矛盾と疑問だらけだが、この発言は「軍事的脅威」の本質を突いている。軍事的脅威とは「意図と能力の掛け算」だ。米国が5000発近くの核兵器を保有しても(=能力)、日本を攻撃する「意図」はないと考えられるから、多くの日本人は「脅威」とはみなさない。一方、北朝鮮からすれば、核攻撃を受ける恐れがあるから米国は「脅威」なのである。重要なのは「能力」ではない。「意図」である。
同盟の核心にある「敵対関係」がなくなれば、「意図」への認識も変わる。「北朝鮮の核の脅威はもうない」というツイートは、外交で軍事的脅威を減らす「お手本」かもしれない。軍事力を強化して脅威に対抗するのは愚策である。敵対関係と脅威は外交力で変えることができる。役割を終えた同盟構造に代わって、「パートナーシップ」など「非排他的」な国際関係の構築が必要だ。
こうして振り返ると、安倍外交は100年来の地殻変動に対応できず、時代遅れの「同盟」にしがみつき、軍拡路線によって外交選択肢を狭めてきた。その結果、日本の発言力と存在感が失われていった「悪夢のような」6年でもあった。
連載第2回は、米中パワーシフトと、その核心的争点である「ハイテク経済」をめぐる対立を取り上げたい。トランプ政権は「華為」(ファーウェイ)など通信大手の排除を求めているが、安倍政権はすんなり受け入れ、排除に与しない英独との差を鮮明にした。ボーイング737MAX8の墜落事故でも同様だ。今や思考停止のまま米決定に追従する日米同盟の実相が浮き彫りになっているのである。