「例えば海自の哨戒機がイラン側勢力の近くを飛行した際に迎撃されるかもしれないし、革命防衛隊の船舶を『不審船』と見誤り、海自の護衛艦が近づいたら、攻撃される可能性もあります」
海自を派遣しても、日本のタンカーを守ることは難しく、米国とイランの軍事衝突に日本が巻き込まれる恐れがある。一方、日本の輸入する原油の8割以上が、イラン近海のホルムズ海峡を通過するタンカーによって輸送されている。日本はどうしたらよいのか。
「自衛隊を送ればそれでよいという発想を改め、そもそも日本のタンカーが襲われることのないような状況を外交努力でつくる必要があります。軍隊でタンカーを守るということは戦争と同義。向こうがタンカーを襲うような緊張関係をなくす方向へもっていかなくてはいけません。
そもそも、昨今の米国とイランの関係悪化、それに伴う、ホルムズ海峡周辺海域での緊張の高まりの原因は、トランプ政権が核合意から離脱したことにあるのです」
柳澤さんの言う「核合意」とは、包括的共同作業計画(JCPOA)のこと。2015年、当時のオバマ政権がイランと合意したもので、具体的には、イラン側に対し、「濃縮ウランの貯蔵量・遠心分離機の数の削減」「兵器級プルトニウム製造の禁止」「研究開発への制約」「査察の受け入れ・透明性強化」「約10年間、核兵器一つを作るのに必要な核物質を獲得するのに要する時間を1年以上にする」などを求め、その見返りに、米国、英国、ドイツ、フランス、は、対イラン経済制裁を解除するという取り決めだ。
ところが、2018年5月にトランプ政権は核合意から離脱し、イランに経済制裁を科すようになった。以降、米国とイランの関係は悪化、現在に至っている。
「日本は米国、イランの両国と外交関係があるのだから、とにかく安倍首相がトランプ大統領や(イランの最高指導者の)ハメネイ師など両国の政府関係者に何度でも会って、両者から話を聞いて、解決の道がないか模索するべきなのでしょう」
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今年の3月でイラク戦争開戦から17年になる。イラク戦争では日本は米国を踏みとどまらせることができず、むしろ航空自衛隊による米軍兵員や物資の輸送など、日本も戦争に加担していった。イランと米国との緊張の高まりの中でも、このままでは、かつてと同じ轍を踏むことになりかねない。だからこそ、柳澤さんが言うように、海自を中東に派遣するのではなく、真に日本がこの危機の緩和に貢献できることを模索すべきなのである。