石破氏も前出の著書の中で、「今や、米国の世界戦略において、在日米軍基地は欠かせない拠点」「米国にとって代替性のほぼない、貴重なアセット」と指摘し、「現状のままでも交渉は十二分に可能」と述べている。
国民世論の「圧力」がなければ米国は譲歩しない
筆者もこの意見に同意するが、「理屈」だけでは米国は譲歩しない。米国の世界戦略にとって不可欠な在日米軍基地を維持するためには、地位協定では譲歩せざるを得ないと判断させるだけの、「圧力」が必要だ。
イラク政府が地位協定に関する米国との交渉に強い姿勢で臨んだ背景には、事実上の占領状態からの脱却と主権の確保を求める強い国民世論があった。これが「圧力」となり、米国に譲歩させたのだ。
日米地位協定の改定を実現できるかどうかも、どれだけ強い国民世論を形成できるかにかかっている。
前出の党首討論会で日米地位協定の改定に改めて意欲を示した石破氏だったが、まずは自民党内で合意を形成する必要があるとも語った。自民党内の基盤が弱い石破氏のことだから、党内各勢力の主張に配慮せざるを得ないのだと推察する。衆院選に臨む自民党の「政権公約」にも日米地位協定の改定は明記されず、「あるべき姿を目指す」と従来通りの表現にとどまった。
こうした動きを見ると、やはり自民党政権の下では日米地位協定の改定を実現するのは難しいのかと思わざるを得ない。石破氏が日米地位協定の改定を実現できるとすれば、それは国民世論を味方につけて、自民党内の抵抗を抑え込むことができた時だろう。
一方、政権交代によって立憲民主党を中心とする政権が誕生すれば日米地位協定の改定が実現できるかというと、それもまた容易ではないだろう。
総選挙の結果、石破政権が続くことになっても、立憲民主党を中心とする新政権が誕生することになっても、日米地位協定改定の成否は国民世論の形成にかかっている。