しかし、放射能影響研究所が長年にわたって行ってきた、信頼性の高い広島・長崎の被爆者調査の結果、放射線の発がん影響には閾値(しきいち)がない、つまりこれ以下なら症状が出ないという値がないことが明らかになっており、国際放射線防護委員会(ICRP)も閾値がないという見解に立っている。日本政府の見解はこうした確立した見解に矛盾し、説得力のないものである。
政府が拒否的な反応をする一方、市民団体や避難者の方々、自治体などからは勧告を歓迎し、実施を求める声が多数寄せられた。さらに、日本医師会と日本学術会議は、「健康権」の観点からの政策の転換を求める共同見解を公表し、その内容はグローバー勧告とかなり近い内容となっている。
日本は、国連のイニシアチブでつくられた国際人権条約のなかで最も基本的かつ重要なものである「国連社会権規約」や、子どもの権利擁護に関する国際的な行動基準を定めた「子どもの権利条約」の締約国だ。これら条約では「健康に対する権利」が明確に保障されている。国際社会の声に謙虚に耳を傾け、人権の視点に立って、健康被害が万が一にも起きないよう、万全の措置をとる姿勢が、日本政府にとって大切なのではないか。政府がグローバー勧告に誠実に向き合って、どう政策を転換していくか、今後の対応に注目していきたい。
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