ローマ規程を批准したことに基づき、ICCは、パレスチナの占領地で行われた戦争犯罪や人道に対する罪について、管轄権を有することになった。裁判所登録によれば、管轄権は、14年6月13日にさかのぼる。そのため、ICC検察官は、多大な犠牲を出した同年7月、8月のガザにおけるイスラエルとハマスの戦闘で行われた戦争犯罪・人道に対する罪について捜査をすることができることになる。
折しも、15年6月には、14年のガザ侵攻について新たに設置され、調査を続けてきた国連調査団が、調査報告書を国連人権理事会に提出することになっている。この報告書にも戦争犯罪等について詳細な事実関係が記載されると予想されている。これを受けた国連人権理事会の対応が注目されるが、焦点はその後のICC検察官の行動である。
実際に捜査を開始するのか、どのようなケースを取り上げ、誰を捜査対象とするのか、注目される。ICCは実行犯だけでなく、指揮官も処罰の対象としており、スーダンについては、西部のダルフール地域での戦闘に対し、現職の大統領や大臣に逮捕状が出されている。ただし、スーダンのようにメンバー国ではない国においてはICC検察局の逮捕状を執行することができないなど、捜査の障害も明らかになってはいる。
それでも、仮にイスラエルの政権中枢の人間に逮捕状が出るとすれば、それは大きな圧力であることは間違いない。ICCメンバー国は、戦争犯罪人が自国に滞在している場合、検察局の求めなどがあれば犯人引き渡しに協力すべき義務を負う。たとえば逮捕状の出ている政府高官が日本やイギリス、フランスなど、世界123カ国のメンバー国に渡航すれば、犯人引き渡しの問題が現実に浮上するだろう。もはや人権侵害を続けても何らの責任も問われないという事態ではない。
パレスチナ占領地、そしてパレスチナをめぐる紛争においては、国際人権・人道法に対する重大な違反が数十年間、絶え間なく繰り返されてきた。
こうした違反行為に対する不処罰に終止符を打つことは、パレスチナおよび周辺地域に住む人々の人権を保障するために不可欠である。また、紛争の平和的解決に向けての本質的な前提条件でもある。
さらに、発足後、「アフリカだけを処罰し、大国の人権侵害を容認している」とそのダブルスタンダードを批判されてきたICCにとっても、真に公平に重大な人権侵害を裁く機関といえるのか、その真価が問われる正念場でもある。今後の国際社会の動向を注目される。
歴史が大きく動くとき、その始まりは小さな一歩であることが多い。今回のICC加盟が、パレスチナ、ひいては世界の歴史を変える一歩となることを希求してやまない。