メホラーダ町議会では、国民党を除けば、議会は一応左寄りの政党で占められているが、国民党が「素人」政党のメホレモスを目の敵にしているところへ、第1党である社会労働者党の態度があいまいなために、ベアトリスさんらの議案がなかなか通らない。二大政党制は、もはや市民の邪魔にこそなれ、その利益を守るための役には立たないという思いが、変革を求める市民の間に広がっている。
「異なる政治」への夢
4月最後の日曜日、ポデモスはマドリード市内の緑豊かな公園で、「春祭り」を開催した。ローマの野外劇場のような半円形の客席を備えた会場の内と周辺に、オーガニックビールの屋台やリサイクル遊具の並ぶキッズコーナーなどが設置され、のどかな雰囲気の中で、党員や支持者が晴天の週末を楽しむ。メホレモスのメンバーも、ボランティアで会場整理をしたり、「市民参加による市町村予算の作り方」ワークショップに参加したりしている。会場の一角、「参加ゾーン」と呼ばれる場所では、ポデモスの上院・下院、州市町村議会議員が交代で、数十人の市民と対話している。皆がシャツにジーンズといったカジュアルな格好なので、一見、誰が議員かわからない。その脇では、10代から30代くらいの若者たちが10人ほど集まって、何やら相談している。その中の1人に声をかけると、気さくに応じてくれた。「僕たちは、マドリード州のポデモス支持層の若者が集まるサークル(CJM)のメンバーです」と、アレハンドロくん(16)。彼はCJMの最年少だ。「赤ん坊の頃から、両親に連れられてデモや集会に参加していました。政治に関わるということは本来、国やそこに暮らす人々のために働くことですから、すごくイケてるんです」。彼らは皆、既成政党が若者の声を無視してきたことに不満を抱き、自分たちの言葉にきちんと耳を傾け、政治に反映してくれる政党として、ポデモスを支持する。「こうして、いろんな年齢の仲間と議論するのは、楽しいですよっ」。アレハンドロくんにとって、ポデモスは人生の学校だ。ちなみにスペインでは、国・地方の選挙権は18歳から持つ。
15Mの取材で知り合った友人たちの案内で、プレスのためのテントへ行き、カメラマン用の取材カードを受け取ると、早速、党首パブロ・イグレシアスと組織担当の書記、パブロ・エチェニーケ(37)が到着するという連絡が入った。野外ステージの裏手に、アレハンドロくんら、CJMメンバーが並び、「2人のパブロ」を待ち受ける。と、そこへ「車椅子の科学者」エチェニーケとイグレシアスが笑顔で到着。若者たちと抱擁を交わす。党のシンボルカラー・紫にちなみ、プリンスの「パープル・レイン」が大音量で流れ、それをバックに2人のパブロがステージに現れると、大観衆から拍手が沸き起こった。それから約1時間、両パブロは支持者からの質問に答えた。
「各地の“シルクロ”の真の役割は、どんなところに?」という問いに、車椅子のエチェニーケが、「シルクロはポデモスの足のようなものです。シルクロがあってこそ、歩める。そして、シルクロがあるからこそ、ポデモスはほかの党と異なり、社会から疎外された人たちの声も吸い上げることができるのです」と応じる。また、再選挙で「統一左翼」との共闘を検討していることに関して、「党理念が違うように思うが、共闘できるのか?」と尋ねられると、「変革のための政府を実現するという共通の夢のためには、少し違いのある者同士でも、じっくりと話し合って共通点を探る努力をすれば、共に歩むことができると信じています」と、イグレシアスが答えた。
このやりとりを通して、リーダーたちは、2度目の選挙を低予算で成功させ、異なる政治への道筋を付けるために、1人ひとりの支持者が選挙戦に力を貸すよう、求めた。そして、それは実際に生かされた。党員投票(投票資格は16歳以上)により、統一左翼との共闘が正式決定されると、メホレモスの仲間もアレハンドロくんら若者も、皆がすぐさま選挙キャンペーンの準備に取り掛かった。自分の町で「あなたの広場で国会」という集会を開き、リーダーたちとの直接対話の場を築いて、それを全国へと広げる。「支持基盤である市民と、何でも話し合う。それが、ポデモスらしさ。だから、それを大切にしてこそ、私たちは前進できるのよ」と、メホレモスの仲間たちは確信する。
大英帝国復活を妄想したのかイギリス人はEU離脱に票を投じ、各国で極右政党が力を伸ばして、世界が右へ、排他主義へと傾きつつある今、ポデモスを支えるスペインの市民は、多様性を大切にし、真の民主主義の実現を目指す政治を、創り出そうとしている。そこにはもちろん保守の壁があるが、じわりじわりとそれをつき崩す20代、30代の政治家が誕生している限り、その夢はまだ続く。