またエルドアン政権は7月末に約90人のジャーナリストを拘束した他、約130社の通信社、放送局、新聞社、雑誌社、出版社の閉鎖を命じた。
さらに政府は、「ギュレンと繋がりがある者が働いていた」という口実で、大学など約2300カ所の教育機関、病院などを閉鎖した。大学の学長ら約1500人も職を解かれた。さらに教育省の職員約1万5000人、民間の学校の教員約2万1000人が解雇された。またトルコ政府は研究者や大学職員に対し、外国への旅行を禁止し、外国に滞在している大学幹部に対し直ちに帰国するよう命じている。
ドイツは、トルコと最も関係が深い国の一つだ。この国で最も多い外国人は、トルコ人である。15年の時点で、ドイツにはトルコ人が約150万人住んでいた。ドイツ国籍を取ったトルコ系住民も含めると、その数は約280万人に達する。トルコ人は、ドイツの移民の14%を占めている。1950年代~60年代にかけて労働力不足に悩んだ西ドイツは、トルコから多数の労働移民を受け入れたからだ。特にルール工業地帯がある西部のノルトライン・ヴェストファーレン州や、首都ベルリンにはトルコ系住民の数が多い。
多くのドイツ人は、トルコ政府の弾圧の激しさに唖然としている。ドイツのメディアからは「エルドアンは、クーデター未遂を口実として、自分に反対する勢力を社会の要職から一掃しようとしている。トルコは、法治主義からますます遠ざかりつつある。エルドアンはクーデター未遂事件を奇貨として、一種の独裁体制を確立しようとしているのではないか」という指摘が出ている。
難民問題でトルコに依存するEU
EUとドイツ政府にとって、エルドアン政権が法治主義を無視するかのような振る舞いを見せていることは、大きな頭痛の種だ。その理由は、難民危機の解決をめぐり、ドイツとEUはトルコに大きく依存しているからだ。2015年9月、メルケル政権はハンガリーで立ち往生していたシリア難民らを受け入れる決定を行い、約100万人の亡命申請者を受け入れた。シリア難民にとって、トルコから船でギリシャへ渡り、バルカン半島を縦断してドイツへ向かう「バルカン・ルート」は西欧に到着するための最短ルートだった。
EUにとって、16年3月のトルコとの合意は、バルカン・ルートを遮断する上で、極めて重要な意味を持っていた。さらにいうと、現在はマケドニア、セルビア、クロアチア、スロベニアなどが国境を閉鎖したために、バルカン・ルートを通って西欧へ向かう難民の数は、大幅に少なくなっている。
EUを悩ませているのが、エルドアンがクーデター未遂事件後、死刑制度の復活をほのめかしていることだ。死刑制度がある国はEUに入ることができないため、トルコは04年までに死刑を廃止した。EU加盟国の間からは、「トルコが死刑を復活させたら、EU加盟交渉を中止するべきだ」という意見が強まっている。
トルコとEUの関係がさらに険悪化した場合、難民合意が破綻し、再びトルコ経由で西欧をめざす難民の数が急増するかもしれない。EUは、第二次世界大戦の経験に基づき、人権の尊重や表現の自由、法治主義の重視といった原則を絶対に侵すことはできないと考えている。クーデター未遂事件以降のトルコ政府の態度は、これらのEUの基本精神に反するものだ。その意味で、トルコのEU加盟の可能性は大きく遠のいたと言わざるを得ない。