この国には、そうした、ずっと棚上げにされていたタブーがまるで地雷のように数多く残っていて、いつかはその地雷が爆発する。そうなる前に、日本のアイデンティティーを考え、この国の在り方や方向性について、国民が一定のコンセンサスを形成することができれば、それは日本が安易なポピュリズムに陥らないための、バラストになるはずです。
個人的には日本が「普通の国」になるのは、少しもったいないと思っています。戦後の日本はアメリカの保護下にあったけれども、その一方で、他の国にはない、新しく魅力的な価値観を生み出してきた。そういう「普通ではない国」としての日本の魅力、アイデンティティーを捨てて「普通の国」になることが、この国にとって本当に正しい道なのか……。それもまた、日本人自らが自分たちの責任において議論すべきことだと思いますね。
猿田 そうした議論を意味あるものにするためには、対立軸を示し、具体的な政策を提案することが必要です。しかし、民進党のような野党や日本の知識層は批判はしても、なかなか具体的な政策提案ができない。そこがまさに、ファクラーさんに「日本の市民社会は根が浅い」と言われてしまう要因だと思います。
具体的な提言を積み重ねてゆくことで、現実的な議論が可能になり、論点をより明確にしてゆくこともできるはずです。私たち「新外交イニシアティブ」では、そうした考えの下で、例えばアジア太平洋地域における米海兵隊の運用や機能を維持しつつも、辺野古への海兵隊の新しい基地建設を伴わない形で普天間基地の返還を実現するという提言書を作って米議会に働き掛けるなど、具体的な問題を解決するための提案をいっていこうと考えています。
ファクラー 猿田さんも指摘されていたように、日本では政治家もメディアも、戦後にできた既得権益を一生懸命守ろうとして、全ての変化を畏れている。だから、だんだん矛盾が多くなって、ハッキリと見えてきたにもかかわらず、誰もそれを変えようとしていない。以前、民主党政権ができた時にも、そのチャンスはあった。そして、3.11の後にも、メディアを含めて、そうした動きがあったのに、結局は潰されてしまった。
結局、社会に余裕がないから、その後は同調主義が強まって「目立たない」とか「リスクを避ける」とかいう傾向だけが強まっているように感じます。そこにきて「トランプ大統領の誕生」というのは、日本が自立を考えるためのチャンスだと思う。この先4年間、トランプ政権のアメリカがどうなるのか、正直、誰にも分からないわけですからね……。
猿田 そうですね、何が起きるか分からない……というのは、自分で「考える」ことのきっかけになります。私たち「新外交イニシアティブ」でも、沖縄の基地問題や、日米地位協定、日米原子力協定の満期到来など、日米外交の重要なテーマに対して、具体的な政策提言を行うことで、そうした議論を活性化できたらと考えています。