誹謗中傷、印象操作は日本のためにならない
ここ数年で来日した特別報告者には、「心身の健康を享受する権利」の報告者アナンド・グローバー弁護士(インド)もいます。彼は、2011年の東京電力福島第一原発事故後に、HRNが他のNGO団体と共に訪日を要請し、来日した12年にはHRNが被災者や市民団体へのインタビューをコーディネートしました。事故で苦しむ人々を私たちのような人権団体が支援しなければならない、取り組むべき問題であると判断したからで、報告書の和訳も出版しました。
ケイ氏の場合、日本に来るきっかけになったのはHRNではありませんし、6月の講演会を招聘したのも上智大学です。
それなのに、ツイッターやブログ等で様々な誹謗中傷や印象操作がありました。ケイ氏や、「共謀罪」法による権利制限を懸念する書簡を安倍首相に送ったジョゼフ・カナタチ氏(「プライバシーに関する権利」の特別報告者、マルタ大学教授)に、私たちが金銭を与えて、自分たちに都合のいい報告をさせているなどという内容です。
15年にも、「子どもの売買、児童買春、児童ポルノ」の特別報告者であるマオド・ド・ブーア=ブキッキオ氏(オランダ出身の法律家)の「日本の女子高生の30%が援助交際をしている」との間違った発言に対し、「アゴラ言論プラットフォーム」代表の池田信夫氏が、私がその情報を提供したかのように非難しました。その後もツイッターやブログなどで繰り返し流布しました。あまりのひどさに私は名誉棄損の訴訟を提起したのですが、今年の6月、東京高等裁判所が、東京地方裁判所での1審の2倍の損害賠償の支払いを命じました。
こうした誹謗中傷や印象操作は何の目的があってやっているのでしょうか? 特別報告者に対する中傷に関しては特に理解できません。ケイ氏は日本に対して、好印象の部分もあるという評価をしているのに、悪影響を与えるだけです。
「個人の資格でしかない」などと言ってまともに対応せず、自分たちに対する異論を封殺するという政府の姿勢も残念でしかありません。報告書では、政府だけでなく、同じぐらいのボリュームでメディアに対しても苦言を呈しています。メディアの独立性に関しては、民主主義国のどこでもある問題ですし、この程度の勧告に対してこれほど怒りをあらわにする国はほとんどなく、あまりに大人げないと思います。
寛容な対応こそが日本の評価を上げる
ケイ氏の件で言えば、「なんでそんな奴の言うことを聞かなきゃいけないんだ!」というネットユーザーがいますが、報告書をすべて読んでいるのでしょうか? すでに外務省とメディア総合研究所から和訳が出ていますから、それを読み、具体的にどこに問題があるのか、きちんと語っていただきたいものです。そこから真の議論がはじまるでしょう。
また、報道機関をはじめ「表現の自由」にかかわっている方々には、もっとこの報告にコミットメントして欲しいと思います。メディア全体でケイ氏の報告をどう受け止めるの、討議する議論の機会をオープンに持つことも大切だと思います。
そして、日本だけが叩かれているという誤解を招くような報道は避けるべきです。対立軸を煽るだけの報道は、それを助長するばかりです。もっと対話を通して歩み寄り、良い方向に向かうことを期待したいです。
最近、日本にいらっしゃる各国の外交官の方々とお話しする機会が増えました。その際、人権の話題になると、今回の一連の流れに対して非常に興味を持たれていると感じます。海外メディアでもいろいろ取り上げていましたが、それだけ日本の対応が特異だということでしょう。人権の問題はどの国でも起きていますから、こうした勧告を出す特別報告者に対して異議を唱える政府が他に存在しないとは言いませんが、日本政府の対応は民主主義国としてはあまりに子どもじみています。
特別報告者は、国も人種も、宗教も習慣も違う何カ国もの国を訪れ、その先々で良い経験もすれば悪い経験もしています。そうした経験がベースにあってのアドバイスに耳を傾けてみることは、悪いことではないでしょう。
寛容な対応こそが、国際社会における日本の評価につながりますし、国内の問題解決にもつながるはずです。そのためにも、特別報告者への正しい理解と、報告書の全文に目を通し、きちんと精査することが重要になります。
デイビッド・ケイ「表現の自由」国連報告者の
訪日報告書の和訳のサイト
(外部サイトに接続します)
〈外務省/未編集版・仮訳〉
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000262308.pdf
〈メディア総合研究所/暫定訳〉
http://www.mediasoken.org/upload/%E5%9B%BD%E9%80%A3%E7%89%B9%E5%88%A5%E5%A0%B1%E5%91%8A%E4%BB%AE%E8%A8%B3.pdf