アメリカの顔色をうかがうのは(非核化の)助けにならない」
こうしたいわば「韓国主導論」を語る進歩派、特に自主派と呼ばれる専門家は多い。現在、韓国で主流となっている自主派の考えとは、南北問題は今や国際問題であるが、そもそもは民族の問題であるとした上で、「開かれた自主」の精神で国際社会において韓国がイニシアティブを発揮するべきという立場だ。今の文在寅(ムン・ジェイン)政権のブレーンの多くがこの考えを共有しており、「朝鮮半島の運転手論」に代表される韓国の北朝鮮政策の骨組みでもある。金理事長は続ける。
「7月にアメリカを訪れた際、連邦議会でも地方議会でも『なぜ韓国が主導的に出ていかないのか』と逆に聞かれた。韓国はアメリカに心理的な依存している。分断が70年続き、分断が体制であり文化となってしまったと実感している。独自で動けなくなってしまった。今は速度を上げるべき。そうしてこそ、韓国が主導できる。今は経済協力を引き戻せないところまで進める必要がある」
開城工団をめぐる駆け引き
北朝鮮側は実際、7月31日に朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」で「何が南北関係の新しい行く手を阻んでいるのか」という論評を発表し、「核実験と弾道ミサイルの発射を中止したのに加え、北部核実験場まで廃棄する勇断を見せたのに、これに釣り合う措置が必要だ」と主張した。
その上で「どんな情勢でも6.15時代(00年の南北共同宣言以降を指す)の結晶として、南北関係の最後の砦として安定して動いていた開城工業地区を天下の悪女・朴槿恵逆徒が『国会』の同意はおろか、他の誰とも一切の協議もないまま独断で断ち切ったので無かったのか」と、韓国側に「決断」を強く迫った。
なお、金理事長は「現在、開城工団に滞在しているあらゆる北側の当局者が、再開を主張している」と明かす。韓国側も準備に抜かりはない。
「閉鎖から2年5カ月が経った。今年の年末が工団で操業していた韓国企業にとって、経営的に耐えられる最後のラインだ。だからこそ財団の仕事も『政府が公団再開を決定した場合、いかに早く対応できるか』に焦点を合わせている。施設の管理状態は想像以上に良い。工団は国連制裁で閉鎖されたわけではないので、韓国政府の決定だけあれば再開できる。機械設備点検は最長でも3カ月でいける。10月から始めても遅くない。8、9、10月に議論すればいい」
このように、「さらなる非核化措置のための相互措置」を求める北朝鮮側と、「歴史的な米朝合意を進めるための促進剤」を打ち込みたい韓国側の立場は、「開城工団再開」で一致を見ているように見える。
だが、こうした空気を読むアメリカは7月31日、メディアに対し「安全を阻害し、挑発を続ける北朝鮮の行動に対し行われた16年2月の工団閉鎖を支持する」と国務省名義の論評を発表した。
韓国内にも慎重論は根強い。文在寅大統領の外交安保特別補佐を務め、急進的な発言で話題を呼ぶ文正仁(ムン・ジョンイン)延世大名誉教授は7月26日、筆者のインタビューに対し「全面閉鎖されている今、開城工団再開は簡単ではない。韓国は国連安保理制裁の枠組みを遵守する立場で動いている。もう少し見守ろう」と述べた。
一方、金理事長は1日、一連の米朝の立場を背景に自身のフェイスブックを更新。「開城工団は経済的にも韓国が圧倒的に多く稼ぐ場所だ。当初から南北は平和のために開城工団を作った。政策の失敗を維持し続けるのも政策の失敗だ。開城工団は再開されなければならない」、「韓国は民主共和国だ、韓国は自主独立国家だ。胸が痛み、目頭が熱くなる」と書き込んだ。
朴槿恵政権時代の積弊(悪政)清算や、米朝関係を進めるためのカンフル剤として、さらに南北の未来を予見する地域としても、開城工団からは今後しばらく目を離せそうにない。