日本と韓国の似た部分を探し始めるとキリが無いが、中でも天気は特別で、どちらかの国の天気予報を見れば事足りるほど一致している。つまり、筆者の住む韓国もやはりうんざりする猛暑の中にある。聞くところによると、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)でも同様で扇風機が人気だとか。まさに日本と朝鮮半島は隣り合っている。
そんな中、筆者はほぼ毎日インタビューに駆けずり回っている。20年前から現在に至る朝鮮半島情勢を韓国の視点で整理し、本にまとめるためだ。筆者は、3つの理由から韓国のスタンスにこそ朝鮮半島の未来を見通すヒントがあると確信している。
朝鮮半島を理解する ヒントは韓国に
まずは経験が多いという点だ。南北会談の歴史は1971年の赤十字会談以降、約50年に及ぶ。その経過も単純ではない。ここ20年を見ても98年から10年続いた進歩派政権では「包容・関与」を、2008年から朴槿恵大統領の弾劾により9年で幕を閉じた保守派政権では「不信・圧迫」という180度異なる北朝鮮政策を行う中で、様々な交渉と政策のノウハウを身に着けてきた。
次にその真剣さにおいて他国と一線を画する点がある。韓国は常に朝鮮半島問題における当事者であり続けてきた。1948年の南北両政府樹立から2年後に始まった朝鮮戦争(1950〜53年)はもちろんのこと、83年に全斗煥(チョン・ドゥファン)大統領一行を狙ったラングーン事件、87年の大韓航空機爆破事件など北朝鮮による度重なるテロを経ながらも、平和を維持する前提で北朝鮮との関係改善を真剣に模索してきた。北朝鮮、さらに国際社会との関係構築は韓国の存亡・繁栄と切り離せない問題だ。
最後に経験がオープンにされている点だ。経験が多い点と当事者である点では北朝鮮も同様だが、社会システムに制約が少ない韓国では、南北関係に関する意思決定のプロセスが比較的透明であり記録が整理されている。さらにアメリカなど関連国にも記録が豊富だ。その上たくさんの専門家が政策樹立に関わると同時に、研究を行ってきたため、評価の幅も広く参考にしやすい。
このような前提の下、筆者は今だけを切り取るのではなく、過去にもこだわって取材を続けている。80年代から北朝鮮政策の立案に携わり南北関係の礎を築いた大ベテランから、今も政権に隠然たる影響力を持つ研究者、保守政権時代の南北関係に関わった政府機関の人物などをメインとし、テレビで人気の脱北者タレント、世界で注目される気鋭の人権活動家まで広くリストアップし、パズルを埋めるような作業をしている。
メディアの報道では、今年(2018年)の上半期は、2月の北朝鮮の平昌(ピョンチャン)オリンピック参加から6月の米朝首脳会談まで、比較的スムーズに非核化に向けた動きが進んだが、その後は停滞ムードが漂っていると見る向きが強いようだ。と言っても、米朝会談が終わってからこの原稿を書いている今現在までわずか40日余り。「焦り過ぎるな」と筆者に説く専門家は少なくない。ただ、南北関係の「現場」にいる人物たちはそう悠長に構えてもいられないようだ。
南北和解協力の象徴、開城工業団地とは?
今回の記事では国家機関である開城工業団地支援財団の金鎮香(キム・ジニャン)理事長へのインタビューを交えながら、南北の和解協力の象徴である開城(ケソン)工業団地について取り上げてみたい。そこには「焦り」があった。
まず、開城工業団地(以下、開城工団)について説明しておこう。開城工団は2000年に韓国の民間企業・現代蛾山(ヒョンデアサン)と北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会、民族経済協力連合会が合意し始まった。北朝鮮側が平壌とソウルを結ぶ軍事的要衝の地・開城から軍を後退させ、2000万坪を提供した。03年に着工し、04年12月には操業を開始した。その後、規模を広げたものの08年に保守派の李明博(イ・ミョンバク)政権になると「非核化の前進なくして工団の拡張はない」という原則の下で停滞した。現在は第一段階の100万坪の開発が終わったのみだ。
さらに13年4月から9月にかけては米韓合同軍事訓練に反対する北朝鮮との関係悪化により約半年間の閉鎖を余儀なくされた。再開後の16年1月に北朝鮮が行った4度目の核実験を理由に翌2月、当時の朴槿恵大統領が正式な意思決定プロセスを経ることなく一方的に閉鎖し今に至る。閉鎖直前の規模は124の企業が約5万5000人の北朝鮮住民を雇用していた。15年の生産額は5億6000万ドル(当時のレートで約500億円、韓国統一部統計)にのぼった。また、05年から08年にかけて、約11万人の韓国住民が観光に訪れた。
筆者は7月、ソウル市内の財団事務所で金理事長に話を聞いた。
金理事長は北朝鮮を専門とする学者出身。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権当時の03年から08年にかけては青瓦台(大統領府)で勤務し、その後08年2月から11年7月まで開城工業団地内に常駐しながら、北朝鮮側との交渉の最前線に立ってきた人物だ。大学教授を経て昨年12月に現職に就いた。
まず、開城工団と絡め、現在の情勢をどう見るかと尋ねた。
開城工団の閉鎖は許せない
「希望が大きい。情勢が変わっている。4月の南北首脳会談と6月の米朝首脳会談を経て、平和の時代へと進むという期待が高まっているようだ。その上で工団が再開されるという確信が社会的に共有されているように思える。
毎日、工団に関心を持った企業からとても多くの電話が掛かってくる。再開時期や新規分譲の計画、さらに有望な職種についてまで、具体的な質問が多く忙しくなってきているが財団の士気は高い」
同財団は開城工団管理委員会も兼ねている。つまり、金理事長は開城工団の管理委員長でもある。過去、開城工団の第一線で北朝鮮側と信頼関係を築いた金理事長に対して、北側から訪朝を要請する声はないのか聞いた。
「北側がそう言及していたと、人づてに聞いたことはある。北側としては当然、『なんで来ないのか』と思っているはずだ。だが私は行く場合、韓国の工団入居企業と一緒に行きたい」
17年12月、外部の専門家で構成された韓国統一部の政策革新委員会は報告書を提出した。統一部とは文字通り南北関係改善のための部署だ。