2019年1月23日、南米ベネズエラの野党指導者フアン・グアイド国会議長が「暫定大統領」就任を宣言した。グアイド氏は、独裁体制を固めるニコラス・マドゥロ現政権に対し大統領選挙のやり直しを求めている。二人の「大統領」が並び立つ異常事態の中、市民は何を思っているのか。2月に首都カラカスで声を聞いた。
チャベス以後のベネズエラ
ベネズエラでは1999年2月に故ウーゴ・チャベス氏が大統領に就任した。「21世紀型社会主義」を掲げ、その実現に向けて2009年2月に憲法改正案の国民投票を推し進めた。これが賛成54%、反対45%で承認された 。
新憲法は、大統領の無期限再選、福祉拡充のための社会安定基金の設立、労働時間短縮、協同組合を中心とする新しい所有形態の導入、天然資源の民営化禁止などを規定。チャベス大統領は、埋蔵量世界一とされる豊富な石油資源を元手に貧困層支援に力を入れ、社会主義的政策を進めた。
13年3月、チャベス氏の逝去でマドゥロ副大統領が暫定大統領に昇格。マドゥロ氏はチャベス路線継承を訴えて4月の大統領選挙で辛勝し、大統領に就任した。近年は原油価格の低迷などで経済危機に直面している。
迫りくるアメリカの帝国主義に抵抗する
日本は、グアイド国会議長の「暫定大統領」就任宣言に対し、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどとともに支持を表明している。
一方、マドゥロ大統領を支持するのは、ロシア、中国、キューバに加えメキシコ、トルコなどだ。ベネズエラ情勢はロシア・中国とアメリカなどとの代理戦争の構図ともいわれる。
「今起きているのは経済戦争だ」。こう説明するのはフランシス・ベラシエルタさんだ。「ベネズエラは中国・ロシア・メキシコ・キューバ・ニカラグア・ボリビア・トルコ・インドとともに、アメリカとEUに対して戦っている」と続ける。
2月14日、フランシスさんの自宅を訪れた。フランシスさんは低所得者層が多く暮らすペターレ地区(カラカス西部郊外)で自治会の代表を務めている。
故ウーゴ・チャベス前大統領の熱烈な支持者だったフランシスさん。「マドゥロはチャベスの路線を完全に受け継いでいる」として今はマドゥロ政権を支持する。「迫りくる状況に対して私たちは強く耐え、独立心と信念を持って団結し、抵抗するべき」と話した。
グアイド国会議長の暫定大統領就任を巡り、1月23日、マドゥロ大統領は「アメリカの帝国主義政府がクーデターを通じ、自分たちの思い通りになる政権をベネズエラで擁立しようと画策している」と演説し、「アメリカ帝国主義政府との外交、政治関係を破棄することに決めた」と断交を宣言した。
軍事介入をにおわせるドナルド・トランプ大統領の恫喝に対し、ベネズエラ国内では反発の動きも出ている。カラカス中心部のボリバル広場には、#HandsOffVenezuelaを合言葉にベネズエラの平和を尊重するよう求める署名のテントがあり、市民らが足を運んでいる。
マドゥロ大統領は2月7日、「ベネズエラへの平和と尊重を求める署名集めを全国で展開しよう。1000万筆超えの署名を集めてホワイトハウスに抗議しよう」と呼び掛けた。一部報道によると、カラカスでは数千の市民が署名に行列をなしたという。