「政治が原因ではない」
ベネズエラ中部グアリコ州のライアン・ロハス議員は、マドゥロ政権に歩調を合わせる政党(Alianza para el Cambio)に所属している。国の現状についてロハス氏は「医薬品は不足している。人道危機も確かにある。だが、これはチャベスから続く政治のせいではない」とし、「まずは国内に蔓延する汚職と国民の怠慢さを立て直す必要がある」と主張した。
グアイド派が求める大統領選挙のやり直しについては「これまでも反与党勢力は常に存在してきた。これは民主主義的でいいことだ」としたうえで、「人びとのわがままには応えられない」と続けた。
ロハス氏はこう強調する。「ベネズエラのことはベネズエラに任せてほしい」「他国の干渉は違法行為だ。例えばカタルーニャ問題でスペインに介入できる国があるだろうか。中南米はアメリカによる政治介入の歴史がある。アメリカは人道支援物資を送る前に経済制裁をやめるべきだ」。
アメリカは1月に石油製品の貿易を制限し、ベネズエラ経済に新たな制裁を科した。マドゥロ派からはベネズエラを支援したいなら制裁を取り払うべきとの声が上がる。
ロハス氏はもともと故チャベス前大統領の支持者だった。学生時代はベネズエラ中央大学(Universidad Central de Venezuela)で学生運動グループの代表を務めた。友人にはグアイド支持者も多いという。
ロハス議員と会ったのは2月11日で、場所は、高所得者層が多く暮らすカラカス西部のロス・パロス・グランデス地区だった。レストランのオープンテラス席で取材中に物乞いに来る男性がいた。ロハス氏はポケットから紙幣を取り出し男性に渡した。慣れた動作だった。
食糧難の現実
前出のフランシスさんは地元の公民館を案内してくれた。政府からの配給食糧が月に1度届く場所だ。「砂糖が最近届かなくなった」とフランシスさんは漏らした。
配給は、市民が100ボリバル(=約3円、2月14日時点)を払って受け取る仕組み。「クラップ」と呼ばれる段ボール箱に入って届く。中には米・小麦粉・豆・牛乳・油・マヨネーズ・トマトソース・ツナ缶 ・パスタなどが入っている。
経済が政治的混乱と連動し、ハイパーインフレーションが加速している。ベネズエラ国会は1月の物価上昇率を268万8670%(年率)と発表した。また国際通貨基金(IMF)は、同国インフレ率が19年内に1000万%に達すると予測している。1円の品物が10万円になる計算だ。
給料が追いつかず食料を買えない人もいる。レストランの外でゴミ箱をあさり、食べ物を探す市民の様子も報じられている。これに関連し、マドゥロ大統領は外国人記者とのインタビューでゴミをあさる若者の映像を見せられ取材を打ち切った。この記者らは約3時間身柄を拘束されたという。
私はカラカス滞在中に2度、困窮する市民と食べ物を分けた。1度はカラカス中心部のショッピングモールで大学生と昼食を摂っていたときのことだった。小さな子どもを抱きかかえた若い母親が隣に来て「助けてほしい」と言った。
紙幣不足で銀行が外貨両替業務を停止しており、私は現金を持っていなかった。そのことを伝えると、母親は「食べ物を分けてもらえれば、ありがたい」と言った。私と学生は食事を残し親子に渡した。母親は恥ずかしそうに「ありがとう」と言い、すぐに食べ始めた。
親子は、今日から仕方なく街に出て食べ残しを探し始めたというような、ぎこちない様子だった。現在進行形で壊れゆくベネズエラ社会の一面を目撃した瞬間だった。