助けを求める親子に出会った=2月11日(李真煕撮影)
ラテンアメリカ全域に逃げ出す人びと
国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、ベネズエラ人口の約1割に当たる340万人以上がすでに周辺国に流出したとしている 。事実上の難民だ。ブラジル、コロンビアのほかアルゼンチン、チリ、メキシコなどにも逃れている。
大学生らもベネズエラ国内にとどまることへの不安の声を上げている。ベネズエラ中北部のカラボボ大学で看護学を専攻するグラディス・マルティネスさんは、「家族の大半はすでに国外に出ている」として、「勉強を続けることや家族と一緒にいることを含めて、ベネズエラにいること自体に希望を失った」と話す。
グラディスさんに出会ったのは2月8日、ベネズエラ中央大学の大講堂で行われたグアイド国会議長を囲む集会の後だ。集会には大学生を中心に約3000人が駆けつけ会場は満席だった。
「でも」とグラディスさんは続けた。「でも、グアイドの登場で希望が戻った。今は人生が良くなる兆しを感じている。私はこの国のために働きたい気持ちが強い。グアイドや同じ気持ちを持つ人びとと一緒に前進したい」。
また、ベネズエラ中央大学で土木工学を専攻するアレハンドロ・ロペスさんはこう話す。「グアイドは若く、政界では新顔。そんな彼とならこれまでの過ちを正して未来志向の再スタートを切れると信じている。
ベネズエラでは過去20年間、政権が経済基盤を破壊するような状況が続いた。人権を侵害し、土地と企業を私物化して、国を分断した」
生きて帰宅できるかどうか心配しなくていい国に変わりたい
2月16日、首都カラカスで、グアイド氏らによる集会があった。アメリカなどから送られてくる人道支援物資を巡り、ベネズエラ国内に入り次第その分配をボランティアで手伝おうとする市民らが数千人規模で集まり連帯を確認した。
集会の会場は、マドゥロ政権を果敢に批判してきた新聞社(El Nacional)の駐車場だ。医学生を中心に多くの学生らも駆けつけた。
ベネズエラ中央大学で学生運動グループの代表を務めるラファエラ・レケセンスさんの姿もあった。
ラファエラさんはベネズエラの現状について「今この国で戦いが起きている」と表現した。グアイド国会議長については「学生運動出身者で、90年代以降、国民が一つになって支持できる初めての野党指導者」だとして、「そのことにありがたみを感じ、それぞれができることとしてボランティアを選んだ人びとが今日ここに結集した」と説明した。
「自由のある国。外出して生きて帰宅できるかどうかなんて若者が心配しなくてもいい国。子どもがゴミ箱から食べ物を探さなくていい国。外国に行かなくても必要な薬が手に入る国。そんな国に変わりたい」とラファエラさんは続けた。
「希望と信念を胸に今年(2019年)こそ大きな変化を成し遂げる。戦いに降伏することはありえない」と国内外に訴えている。
カラカスでは治安の悪さを踏まえ、市民らが常に身の安全に神経をとがらせている。私は、高所得者層が多く暮らし比較的安全とされる地域にいるときでも、道で無防備にスマートフォンを取り出すな、夜間は決して出歩くな、と繰り返し助言を受けた。
現地の大学生などからは、強盗に見つからないよう、下腹部にスマートフォンを隠して出歩くことを勧められた。
待ち望まれる「変化」
ベネズエラで見えてきたのは、政治的混乱と連動する経済危機の中で、絶望に似た「諦め」と信念のような「希望」が混在する様子だ。
かつて南米一先進的といわれた発展の勢いは見る影もない。カラカスの生活の質はラテンアメリカで最低と評されるまでになった。国内にとどまる人びとの我慢は限界に達している。グアイド派の市民の中には、事態を打開できるならアメリカの軍事力を借りてでもベネズエラに変化が訪れることを望む人もいる。