第2のシナリオは、軍による統治の持続である。これは今後、経済危機の発生やNUGと市民の抵抗運動の活発化、国境地帯での紛争激化などで、治安が安定せず、また、政府の機能も回復しないパターンである。こうなると、軍の想定は狂い、彼らの考える「民政移管」のための選挙を実施することは困難になる。市民への妥協を望まない軍は、長期化する危機に対して、非常事態宣言の解除ができず、その直接統治を継続するしかなくなる。そうなれば、1988年から2011年まで続いたかつての軍事政権(SLORC、SPDC)に近い体制になるだろう。憲法も実質的に機能停止状態で、議会もないまま、監視と強権で表面的な安定を維持する体制ができる。
第3のシナリオは、妥協の再選挙である。このまま国内外から承認を得られない状態で軍が統治を続け、経済は停滞、新型コロナ対策も進まず、市民の抵抗も収まりきらない場合、軍が打開策を探る可能性もゼロではない。しかし、その場合でもクーデターの失敗を認めることは軍の面子が許さない。したがって、刑事罰をいったん下した上でアウンサンスーチーらを恩赦で釈放し、NLDも参加する自由で公正な選挙を実施。その結果を軍が受け入れるというケースである。むろん、NUGもこの軍の歩み寄りを受け入れなければ妥協は成立しないため、クーデター後の軍による弾圧については、水に流さなければならない。
先行きを見通すことはまだまだ難しいが、軍が暴力的な抑え込みに自信を深め、国際社会による制裁も働きかけも効果がない現在、第1のシナリオ、つまり軍が強引に当初のプラン通り押し進めようとする可能性が高い。それが失敗すると第2のシナリオである軍事政権による直接統治の持続となるだろう。そして、第3のシナリオは、軍もNUGも妥協する気配はない現状では、ほとんど夢物語である。
弾圧による犠牲者が今も増えているが、市民の抵抗は続いている。また銀行からの現金引き出しに制限が設けられるなど経済的混乱も続いており、これからさらに悪化することは間違いない。現地通貨であるチャット安が進んでいて、輸入に頼っている燃料価格に跳ね返ってインフレが起こることが懸念されている。貿易赤字の拡大は政府の外貨不足につながる。一方で楽観視する要素はほとんどない。クーデターという政治危機からはじまった混乱が経済危機を引き起こせば、さらなる政情不安につながる可能性もある。予断を許さない状況がしばらく続きそうだ。