タリバン新政権を、孤立させてはならない
さて、今後のアフガンにおいては、旧タリバン政権のときのように、女性の権利をはじめとする人権状況が悪化するのではないかと強く懸念されています。国際社会は、そして日本は、タリバン新政権のアフガニスタンと、どう対峙していけばいいのでしょうか。
カブール陥落後、バイデン政権は米国内にあるアフガン政府の外貨準備金を凍結しました。IMFも「タリバン新政権が国際社会の承認を得ていない」ことを理由に、予定されていた経済支援の送金を止めると表明しています。そうして事実上の金融制裁を行うことで、タリバンに圧力をかけようとしているようです。
タリバン支配下において、「人権」が無視されることのないようにすることは重要です。とりわけ女性や少数派の権利を守ることは、援助凍結と制裁の解除の「条件」として、大前提に掲げなくてはなりません。
しかし、最初から闇雲に「ハードル」を上げすぎない方がいい、と思うのです。
旧タリバン政権のときのような「人権」への姿勢をとれば、それは自分たちの首を締めることにしかならないのは、今のタリバン首脳部もよく分かっています。もちろん、武装組織として戦うことと、政府を運営することでは、かかる金が桁違いであることも知っている。さらには、ガニ政権からの「役人」たちを食わさない限り政権が立ち行かなくなることも、そして下部兵士たちに、戦って勝ち得た利益を味わわせてやらなければ、やがて不満が広がり統制が効かなくなってくることも、タリバン首脳部自らが十分に分かっているのです。
彼らは政権掌握後最初の会見で、女性の権利は「シャリーア(イスラム法)の範囲内で尊重する」「権力を独占せず、他の政治勢力も含めた『インクルーシブ(包括的)』な政府をつくる」と述べました。ただ後者については、前のタリバン政権を崩壊させた後、2001年の暮れにアメリカが中心となって設立した暫定政府から、タリバンは完全に排除されていたという事実があります。勝利に酔ったアメリカ、そしてそれと一緒に戦った軍閥たちは、勝利の後の権益確保に没頭し、「敗者」への配慮など眼中になく、全ての組閣ポストを貪り尽くしたのです。
立場が逆転した今、そのタリバンに向かって、新政府を包括的にせよと迫るのは、本来なら無理筋な要求なのです。アルカイダと直接的なつながりのある強硬派を含め、色々な派閥でなりたつタリバンが、組閣において、敗者への配慮をしながら派閥間の利害調整をするとは、現実問題としてちょっと考えにくいでしょう。
ですから、とりあえずこの段階では、「人道援助」を全開してみてはどうでしょうか。その場合の「条件」は、食料、医療などが、それを必要としている人々に届く手段と方法の確保です。その後も、援助する側の「人権観」は、「人道援助」の条件にどこまでなりうるのかを自問自答し続けていかなくてはなりません。価値観の異なる人々との交渉ですから、焦らず、時間をかける必要があるのです。
タリバンという組織はもともと、アフガニスタンの最大勢力パシュトゥン族の学生たちによる「世直し運動」から始まりました。冷戦期のソ連軍による侵攻後、それを追い出した軍閥たち(後に私は彼らを武装解除することになったわけですが)による権力闘争で荒廃したアフガンを、再生させるために立ち上がった若者たちだったのです。
しかし、政権を取りはしたものの、国を動かす経験がなかった彼らは、福祉・開発を期待する国民に信頼で応えるのではなく、力で統制する恐怖政治へと陥っていきました。そして、後に9・11テロ事件を引き起こすことになるアルカイダをかこい、国際社会からも孤立していくことになります。
再びタリバンを孤立させ、同じ歴史を繰り返すことがあってはならないと思うのです。