とはいえ、選挙を左右するほどの最も大きなムーブメントは、有名人や企業主導ではなく、一般の女性、しかも若い世代から生まれると私は見ている。というのは、「民主主義は自分の手で勝ち取るもの」というのが、アメリカで引き継がれてきた独自の信念だからだ。良くも悪くも「自分の力を信じて行動する」のがアメリカ人であり、それが変化の原動力になっている。同時に、自分の手で権利を勝ち取っていない世代がそのありがたさを忘れてしまうという欠陥もあり、それが保守に傾いた現在の最高裁を作り上げてしまったとも言える。
すでに多くのグループが州のレベルで中絶を合法にするための政治活動を始めているところを見ると、「ロー対ウェイド判決」後に生まれた世代の女性たちが中心になり、失った権利を取り戻そうとするパワーが強まっている。若い世代が作り上げていくアメリカの未来に希望を持ちたい。
「ロー対ウェイド判決」(註1)
テキサス州の妊娠中の女性〈ジェーン・ローという仮名を使用〉が、ウェイド地方検事に対して起こした裁判の判決。原告は、母体の生命を保護するために必要な場合を除き、中絶を禁止するというテキサスの州法が、女性の権利を侵害していると訴えた。1973年に下された最高裁判決では、女性が中絶するかどうかを決める権利は、憲法で保障されたプライバシー権の一部であるとし、胎児が子宮の外でも生きられるようになる妊娠後期より前であれば、中絶の権利が認められるとした。この判決により、妊娠初期の中絶は全面的に、中期は限定的ではあるが認められた。
論文(註2)
Kristin Mackert, “To Bear or Not to Bear : Abortion in Victorian America”, 1990(https://repository.library.georgetown.edu/handle/10822/1051350)
「プロライフ(Pro-Life)」(註4)
「Pro(賛成)」+「Life(生命)」の意で、胎児の生命を支持し、中絶に反対する立場のこと。中絶の権利を求める立場は「プロチョイス(Pro- Choice、「女性の選択を支持する」の意)」と呼ばれる。
「アメリカ歴史家協会(OAH)」(註3)
Jennifer L. Holland"Abolishing Abortion: The History of the Pro-Life Movement in America"(https://www.oah.org/tah/issues/2016/november/abolishing-abortion-the-history-of-the-pro-life-movement-in-america/)