ケネディ大統領も海上封鎖を開始する前日、「なによりも大きな危険は誤算――判断を誤ることだ」と口にしていたという(ロバート・ケネディ著『13日間 キューバ危機回顧録』中公文庫)。米国もソ連も核戦争は望んでいなかった。しかし、誤算や誤認によって双方とも望まぬ戦争のトリガーが引かれ、それが核戦争にまでエスカレートすることをケネディ大統領は最も恐れていた。そして、前述の通り、実際に誤算や誤認によって核戦争が起きていてもおかしくなかったのである。
米国は、アジアに配備する中距離ミサイルは通常弾頭用で核弾頭の搭載は想定していないと強調しているが、1987年にソ連と中距離核戦力(INF)全廃条約を締結するまで核弾頭用の中距離ミサイルを実戦配備していたことからも、技術的にはいつでも核弾頭を搭載することは可能だ。
また、中国が2000発以上保有しているとみられる中距離ミサイルは核・非核両用である。
実際に中距離ミサイルが発射された場合、それが通常弾頭か核弾頭かを識別することは困難である。だからこそ、中距離核戦力(INF)全廃条約では、核弾頭ではなく、その運搬手段であるミサイルの保有を禁止した。しかも、現在米中ともに開発を進める「極超音速(音速の5倍以上)ミサイル」は発射から着弾までの時間が10分程度と極めて短いので、誤算や誤認による核戦争勃発のリスクが高い。
こうしたリスクを直視するならば、中国との「ミサイル・ギャップ」を埋めるために米国が日本に中距離ミサイルを配備するというのは、「抑止力向上」というメリットだけでは片付けられない。
地上発射型中距離ミサイルに限って言えば中国が優位に立っているのは事実だが、米国は最大154発のトマホーク巡航ミサイルを搭載できる原子力潜水艦をはじめ、海洋発射型のミサイルでは逆に優位に立っている。
60年前のキューバ危機の教訓に学ぶのであれば、核戦争のリスクを高めるミサイル軍拡競争へと突入するのではなく、互いに相手にとっての脅威を取り除く軍縮協議こそが緊急に求められているのではないだろうか。
(*1)
Memorandum From the Presidentʼs Special Assistant for Science and Technology (Wiesner) to the Presidentʼs Deputy Special Assistant for National Security Affairs (Kaysen),Washington, September 25, 1962.
https://history.state.gov/historicaldocuments/frus1961-63v10/d439
(*2)
Miller Center, Pesidential Recordings
MEETING WITH THE JOINT CHIEFS OF STAFF ON THE CUBAN MISSILE CRISIS ON 19 OCTOBER 1962
(*3)
Alexander Mozgovoi, The Cuban Samba of the Quartet of Foxtrots: Soviet Submarines in the Caribbean Crisis of 1962 (Moscow, Military Parade, 2002). Translated by Svetlana Savranskaya, National Security Archive.
https://nsarchive2.gwu.edu/NSAEBB/NSAEBB75/asw-II-16.pdf
(*4)
【核70年の黙示録】(3)脳裏よぎった文明の破滅 誤った発射命令、現場混乱 「核戦争防いだのは運」‐共同通信、2015年3月28日