ただ、これまでずっと追求してきた統一を、いったんはやめようというわけですから、進歩派からも保守派からも反発の声が上がるのは当然です。進歩派は南北の平和統一という理想を手放して永久分断を受け入れるのかと怒るだろうし、保守派は不倶戴天の独裁者を対等な相手として認めるのかと怒るでしょう。自由を極端に制限する金正恩政権下であえぐ北朝鮮住民を見捨てるのか、という議論も避けては通れません。
だから、二国家の方向に進むのかどうかという議論は、専門家や市民団体なんかも入った大きな枠組みをつくって、何十回という対話を重ねていくことで合意をつくっていくしかないんだと思います。二国家に進むためには、憲法を改正する必要がありますし。
そこで大事なのは、保守派と進歩派が話し合うことです。韓国は1998年に金大中政権が誕生するまで、半世紀の間、保守の国だったんです。いくら一部の保守派が極右化していると言っても、保守派を無視して進めるというのは、絶対にしてはいけない。それこそ、下手したら内戦になりかねない。
進歩派の人たちは、保守派を敵視して毛嫌いしますけど、私は両方と付き合ってきましたから、合理的な保守と進歩両派は対話ができると確信しています。十分に対話できるんですよ。実際、フェイスブックなんかでは普通に対話していたりしますし。陣営を超えた「公論の場」をつくることが必要だと思います。
日本は朝鮮半島の人びとの味方であってほしい
これからの南北関係をどうしていくのかという「公論の場」を先頭を切ってつくれるのは、実は在日コリアンではないかと、私は思っているんです。日本であれば国家保安法を気にせずに議論できるし、朝鮮総連の人たちがいます。彼らは世界にちらばる700万人のコリアンの中で唯一、自分たちは朝鮮民主主義人民共和国の海外公民だというアイデンティティを持っている。そういう人たちを含め、在日コリアンの知識人たちが議論する。そこに韓国から来た人や中国やアメリカ、欧州に住むコリアンの知識人も参加する。韓国より一歩先を進む議論を、日本で始めることができるんじゃないか。
日本人にも関心を持ってほしい。当たり前ですが、この本は第一に日本の読者に届けたいと思って書いたものです。日本生まれの在日コリアンとして、私の中には、日本は苦悩する朝鮮半島の人びとの味方であってほしいという思いがあります。でも、現実には必ずしもそうではない。2018年の南北首脳会談の際にも、当時の安倍政権は徹底的に反対した。平和の実現に向けた努力を後押しする動きはありませんでした。
韓国では、「本来であれば、戦争に負けたときに日本が分断されるべきだったのではないか」という呟きを聞くことがあります。「なぜ日本の代わりに朝鮮半島が罰を受けたのか」と。日本の植民地支配と戦争の帰結として、朝鮮は分断されました。分断の責任の一部を、日本も負っているはずなんです。そうした歴史に対して、日本の人びとには、もっと責任を持ってほしい。無感覚でいてほしくない。
だからこそ、日本の読者に、韓国の底にあるものを理解するためのテキストを提供しようと考えました。今は映画からドラマ、文学まで、さまざまな「韓流」ファンがいます。この本が、そういう人たちに届けばいいなと思っています。
分断が繰り返し戒厳につながり、戒厳が虐殺につながった韓国現代史を丁寧に紹介したのも、私の義父のように、今なお苦しんでいる人たちがいることを日本の読者に知ってほしかったからです。そういう歴史を共有し、人間としての共感を持ってほしいと思います。
