
朝鮮労働党創建80周年の式典に参加するベトナムのトー・ラム書記長(中央)。左は金正恩総書記(左)、右はロシアのドミトリー・メドベージェフ前大統領
韓国の自主国防と自立への思い
徐 韓国には、「自主国防」という悲願があります。自主国防というのは、古くは朴正熙(パク・チョンヒ)政権の1960年末から掲げられ、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時(2003年2月〜08年2月)に具体化されました。盧大統領は軍の高官に「北に勝てるのかどうか」も聞いています。アメリカの力を借りなくても北朝鮮を撃退することができるということと、自らの力で国を守る主導的な姿勢をも意味している言葉なんです。
韓国が原子力潜水艦を造るという話も、韓国にとっては自主国防の完成だと考えられています。また李在明政権は、朝鮮戦争以来アメリカに委ねてきた軍の戦時作戦統制権を韓国に戻すことを公約にしています。その実現のためには、米韓訓練をたくさんこなして、韓国軍の能力を高めなければなりません。北朝鮮はもちろん反発するでしょう。李在明政権は、南北関係を犠牲にしてでも、戦時作戦統制権や原潜を手に入れて自主国防を完成させるのかという、難しい選択に直面するでしょう。
布施 韓国が戦時作戦統制権を取り戻すというのは、確かに韓国の防衛は韓国が主導するという自主自立の象徴的なものです。ただ、それによってアメリカとしては在韓米軍の役割を対北朝鮮から、対中国に変えようとしているのではないかと私は懸念しています。
トランプ大統領は、日本に対しては「中国は脅威だから防衛費を増やすべきだ」などと言いながら、米メディアCBSのインタビューでは「中国をたたきのめすよりも協力したほうが、アメリカはもっと偉大になるし、良くなるし、強くなる(bigger, better, stronger)」とも言っています。アメリカとしては、軍需産業の利益のために中国に対する脅威を日本などに喧伝しつつ、自国の経済的利益を考えて中国とは戦争にならないようにうまくコントロールをしているように思います。その辺りは、どう見ていらっしゃいますか?
徐 確かに李在明政権は、在韓米軍の柔軟運用という米国の言葉をうまく受け流しその影響を最小限に抑えながら、その代わりに韓国に戦時作戦統制権を返してもらおうとしています。アメリカの言うことを全部聞いていたらまずいことになる、ということを李在明はわかっていると思うんです。というのも、盧武鉉政権は発足直後にイラク派兵問題で大きくつまずきました。盧武鉉大統領は派兵の対価として、アメリカに戦時作戦統制権の変換を要求し、さらに南北関係の改善を進めようとしていたのですが、支持者の大量離脱を招き支持率の落ち込みを招きました。李在明は、その失敗をわかっているはずで、アメリカの口車には乗らずに、お互い騙し合いをしているような印象です。
布施 確かに、トランプ大統領に原潜の話をした時、李在明は、「韓国が原潜を持てば、あそこの東シナ海にある、北朝鮮だけじゃなくて、中国の戦艦も追いかけられるでしょう」とニヤリとしながら言ったんですよね。あの辺は、よく言えば「外交上手」、悪く言えば「タヌキ」だなと思いました(笑)。
徐 そうですね。韓国には対中関係を悪化させるつもりはありません。台湾有事についての認識も日本とは違います。韓国では、台湾有事の時に中国に対するためではなく、北朝鮮が韓国へ攻めてくるからそれを防ぐために軍備を整えるというロジックになっているわけです。近年増えている韓国内の嫌中デモに対しても、李在明は国益を損ねるからやめるべきだと言っています。韓国内でのナショナリズムの高まりが、対中関係の悪化につながることを警戒しているのでしょう。

アジアの中で新しい関係をいかにつくるか
布施 平和を実現するためには、ナショナリズムをコントロールすることは重要ですね。排外主義や外国を敵視するようなほうに向かっている日本の現状は非常に危うい。本当に東アジアの平和をつくっていくためには、日本が明治以降の「脱亜入欧」という発想を払拭し、アジアの国々を対等に見るようにならなければいけないと思っています。明治以来、日本という国はアジアの中で特別な国だという考えを引きずってきました。そうした中で、アジアのほかの国に経済力など実力で抜かれるようになってくると、自分たちのアイデンティティが崩れ、ゆがんだかたちで攻撃するようになってしまう。福澤諭吉は「脱亜入欧」だけでなく「独立自尊」も唱えた。「脱亜入欧」も日本の独立のためだった。今は、肝心の「独立自尊」の精神を失って、「脱亜入欧」という時代遅れの精神だけが残ってしまっています。
徐 日本の自立というのは、明治に戻るということではなく、やっぱり今の時代にふさわしい何かをつくっていくと捉えたほうがいいということですよね。