正規労働者が、経営者に同調して非正規労働者を雇用の調整弁として切り捨てるとき、それは“NOと言えない”労働者を生み出すことで、結果的に自分たち自身の雇用の安定を掘り崩していることに気づくべきだ。それは決して自分たちの利益にかなった行為ではない。その証拠に、正規労働者は今まさに「既得権益の(不当な)受益者」としてターゲットにされているではないか。
セーフティネットの穴が広がり続ければ、いつかは自分の足元にも及ぶ。イスが減り続ければ、また減らなくても自分の体力(“溜め”)が落ち続ければ、いずれは自分も座れなくなる。そのときになって「あれは座れなかった人間が悪い、という話じゃなかった」と気づいても、もう遅い。
総合研究開発機構(NIRA)は08年4月、就職氷河期世代に対して今のように何の実効性もない就労支援策でお茶を濁しているだけだと、将来的な生活保護費の増額分は17~19兆円に上る、という試算を発表した(現在の生活保護費は2.6兆円)。しかし、その人たちが“NOと言えない”労働者となって労働市場全般、ひいては社会全般の土台を掘り崩すのだとしたら、社会の損失は文字通り計り知れない金額に達するだろう。日本社会はこの間、目先の財政均衡のために、先々の決定的な財政不均衡に向かって突き進んできた。今こそ、私たち自身のために、アメリカ追随一辺倒の構造改革路線からきっぱりと決別すべきときだ。