結婚や家族のあり方の前提を変えるべき
社会学者のアンソニー・ギデンズは、外見も名前も同じままなのに、すでにその中身が変化している社会制度を「貝殻制度」(shell institutions)と呼び、結婚や家族がその典型の一つであると指摘しています。現状の結婚に関する議論をみていると、どうしても過去に形成された貝殻の部分に振り回されている印象があります。近年、男性の雇用をめぐる状況は大きく変化しています。男性稼ぎ手モデル以外の家族像が必要なのは明白です。また、ひとり親世帯もありますし、再婚してまた家族を作る人たちもいます。専業主婦だけではなく、専業主夫も目につくようになってきました。現代の家族のあり方は実に多様です。もちろん、独身のまま暮らしていく人もいるでしょう。必要なのは貝殻を維持しようと躍起になることではなく、中身の変化に合わせた社会制度の刷新です。
「男は仕事、女は家庭」という家族像が否定されているわけではありません。家族のバリエーションの一つになったということです。自分になじみのある家族像しか認めない人々は、結果的に新しい家族像の芽をつみとり、家族形成を難しくしてしまっていることに気がつく必要があります。これからの社会で重要なのは、さまざまな立場の個々人がお互いを尊重すると同時に、いかにして全体としての社会の秩序を保っていくかを考えていくことです。自分とは違うという理由だけで、さげすんだり、見下したりするのは愚の骨頂です。
現状では、どうして結婚しない人が増えたのかという疑問はよく聞きますが、近い将来、なぜかつては大半の人が結婚していたのかが議論されるようになるかもしれません。独身の男女がさらに増える未来の社会からすれば、むしろ、ほとんどすべての男女が結婚していた過去の方がよほど不思議に見えるはずだからです。