税金や年金など国や独立行政法人の業務では一定の効率効果があるかもしれませんが、それが投下した経費に見合うかは疑問です。
また、マイナンバーによって収入や財産が全体的に国に把握されるようになれば、行政の側から「あなたはこのような行政サービスを利用できる」と告知してもらえるようになる、という説明がなされることがあります。理想論からすればそのとおりです。しかし、少子高齢化社会、日本経済全体が長期的に見て上昇方向にないという現実からすれば、行政はいかに福祉による支出を抑制するかを考え実行することはあっても、逆に、積極的に給付を行おうとすることなどあり得ません。
また、個人番号カードを取得すれば、インターネットを通じて自分の個人情報へのアクセス記録を確認したり、行政サービスの情報を表示したりできる「マイナポータル」へのログイン手段としても利用できます。これまでも個人情報保護法や個人情報保護条例に基づいて自分の個人情報へのアクセス記録の開示請求はできましたが、実際にはほとんど利用されていませんでした。行政の窓口まで行って開示請求するのが面倒だったと考える人もいるでしょうから、その点からすれば、一定の意義はあると言えるでしょう。
ただし、個人のパソコンなどへの行政サービス情報の表示などは、提供情報の内容にもよりますが、マイナンバー制度を採用しなくてもできることです。個人番号カードを持つ人にのみ個人情報を自宅のパソコンから見ることができるという仕組みは、便利である一面、本人になりすまして操作できるということなので、不正利用の危険があります。
危惧される個人番号の不正利用
法律が予定している個人番号による本人確認は、顔写真付きの個人番号カードか、通知カードと顔写真付きの運転免許証やパスポートなどが必要なので、これが厳格に実行されるかぎり、個人番号が流失してだれかがなりすましに利用することはできません。この点では、マイナンバー法は諸外国のなりすまし事案を十分に配慮しています。問題は個人番号の流出よりも、個人番号が生涯不変の番号として社会に広く知れ渡る社会環境になることです。たとえば、子どもたちがお互いの個人番号を教え合うようなことは、容易に想像できます。個人番号に関心のない人が自分の個人番号を他人に教えるということも、無数に起こるでしょう。何らかの事情から、自分の個人番号を他人に教える人もいるでしょう。このような社会では、個人番号を手掛かりにして特定の人の個人情報を収集、集積できないかと考える人が、当然、無数に現れます。
そうなると、マイナンバー制度の枠の外で、人々が勝手に個人番号で紐づけされた個人情報を集めるようになります。ここは法制度の枠外なので、何が起こるかわかりません。このようなことをすることは、もちろん、違法です。しかし、ネットの世界は、違法だと言ってもだれもが守るわけではありません。おもしろいと思い、儲かると思えば、年齢・国籍を問わず、国境を越えて、だれもが参入してきます。そこでは本人の知らない間に特定の個人の情報が集積され、利用され、本人にとって取り返しのつかない事態になるかもしれないのです。
個人番号の流出を防ぐために
そういう危険性のある中で、事業者は、従業員や取引先(個人)の個人番号を記録し、利用せざるを得ません。不正利用や流出を防ぐ一番の方法は、これらの個人番号を持っている時間をできるだけ短縮することです。具体的には、従業員数が少ない事業者は、個人番号の記載が必要なときに、各従業員に確認して記載するだけにとどめ、自分では従業員らの個人番号を管理しないようにすることです。従業員数が多くなると、このようなことはできませんが、他の個人情報と一緒に管理しないで、個人番号が必要なときだけ使うものとして独自に管理すべきです。そうすることによって、人的ミスを回避することができるでしょう。個人の話に戻れば、先に説明したように、個人番号は本人の管理によっては簡単に流出するものであることを自覚することです。そして、単に行政側から与えられたままではなく、これからの時代、自分たちはどういう個人識別制度を必要しているのかを考えていくべきでしょう。