しかし今回、回答をした児童福祉司の中には、カウンセリングをはじめ、身近な相談機関として性的搾取被害にあった児童のための専門支援ができる機関、性教育などができる機関などの必要性を感じている人が多いようでした。
結論として、現行の児童相談所では「支援を届ける」という権限に限界があることが、明らかになったと思います。性的搾取の被害にあった子どもは、例えば虐待被害にあった児童より全体的に深刻な環境下にいるにもかかわらず、児童相談所には支援を行う体制が確立されていないのです。児童福祉の公的なセーフティーネット機関がこのような状況である以上、性的搾取の被害児童全員に手厚い支援を届けられるようになるには、まだ時間がかかりそうです。
子どもたちを守るための課題
全国で日々起きている、子どもの性的搾取という悲しい事件。報道を目にするたびに、彼らには今どんな支援がされているのだろう? 学校では、家庭では、どのように過ごしているのだろう?……と考えてきました。ライトハウスとつながった子どもたちには、時間や資金が許す範囲で定期的に連絡したり、会いに行ったり、医療機関やカウンセリングにもつなげてきました。しかし次々と相談が入るため、十分な支援が届けられないことを痛感させられます。共に支えてくれる地域社会や専門機関など、連携先の少なさに途方にくれることもあります。
今回の調査結果を見て、まだまだ現場での支援が手探り状態であることを知り、驚きが隠せません。これは早急に解決しなければいけないと思います。子育て支援から虐待相談まで、すでに多くの役割をもつ児童相談所が、性的搾取の被害児童も支援する場となるには、相応の人員とプログラムが必要でしょう。
同時に、これほど痛ましい事件が続いて解決策が一向に進まないのは、人々の根底にある意識のせいではないかとも考えてしまいます。「遊ぶ金がほしくて援交したんじゃないの?」「18歳未満だからというだけで被害者っておかしい」というような意識がどこかにある。JKビジネス、ジュニアアイドル、子どもを凌辱するような漫画など、若年層や子どもの性を商品化する風潮も同じです。
子どもの性を被写体とした児童ポルノは、国際的な批判が高まる中、日本では主要7カ国で一番遅れて2014年にようやく所持を禁止する条項(単純所持罪)が加えられました。他の先進国より10年も遅い行動です。
法律上は、性を買われた子どもは犯罪被害者です。しかし、社会は必ずしもそうと認識していないのではないでしょうか? 今回のように性を買われた子どもの背景や支援体制は調査されても、誰がどのように子どもの性を売り、どのような人が、どのような意識を持って子どもの性を消費したのか、という「加害者の背景」はいまだに調査されません。
性の話がタブー視される日本の社会では、性教育も普及せず、街中には商品化された性の情報のみがあふれています。未成年を狙った痴漢、盗撮から強姦まで、まるで性犯罪をあおるようなAVも多く作られています。学校や社会が、子どもの性を快楽の道具とする風潮を問題とせず、子どもたちに自分の体と心を教える機会すら作らないことが、いかに彼/彼女たちの安全や健康を軽視しているか。すべての大人に考えてもらいたいです。
カウンセリングと性教育が必要
今回の調査で、被害にあった児童に必要な支援として最も多くの意見を集めたのは「カウンセリング」と「性教育」でした。子どもが恋愛をして大人になる過程で、自分の体や心と向き合うための正しい知識を得る機会や、性に関して気軽に相談できる環境を作ってあげることは、子どもたちを性犯罪から守るうえでも不可欠ではないでしょうか。このことは私自身、児童福祉施設などで子どもたちに性教育や性ビジネス被害に巻き込まれないための授業をするたびに、いつも肌で感じることです。初めて学ぶ恋愛のこと、自分や異性の体についての知識、子どもの性の商品化がいかに深刻になっているかといった話をすると、中・高校生たちは「こんなことを知りたかった」「こんな話をしたかった」というふうに目をキラキラさせて聞き入り、いろいろな反応をしてくれます。講演後に「誰に相談していいかわからなかった」と、そっと悩みを打ち明けてくれる子も必ずいます。
最後に、2015年(平成27年)度版の「児童相談所における児童買春、児童ポルノ被害児童への対応状況に関する研究」報告書は、ライトハウスのウェブサイトでも公表していますので、ぜひみなさんも読んでみてください(「厚生労働省」「児童相談所」「報告書」のワードを入れて検索)。
http://lhj.jp/wp-content/uploads/2016/06/jisorepo_web_20160531original.compressed.pdf
調査研究に携わった委員のみなさんによる提言と考察、予防のための啓発と性教育の必要性などは、とても興味深い内容となっています。私も委員の一人として、海外視察で見た幼い時期に性を売らされた子どもたちのことや、自ら社会で生き残るために売春を経験した少女たちに対する斬新なケアプログラムの紹介をさせていただきました。
子どもへの性的搾取という暴力被害を許さない土壌を作り、また被害にあってもいち早く介入・支援ができるよう、これからもいろいろな場所で子どもたちと社会に伝え、幾重にも守る体制を作っていきたいと思います。