ほかにも、YouTube(ユーチューブ)の不適切なコンテンツと一緒に表示されたくないと考える広告主がいたり、IT企業や教育機関からなる新プロジェクト「ニュース・インテグリティー・イニシアチブ」が始動したりなど、さまざまな動きが見られます。
「ニュース・インテグリティー・イニシアチブ」は、Facebookやフォード財団、ウェブブラウザ「Firefox(ファイアフォックス)」を開発したMozilla(モジラ)などが出資し、ニューヨーク市立大学ジャーナリズム大学院に拠点を置き、調査などを行う目的で設立されました。
このような動きに至ったのは、「おかしい」という声が上がったことも一因であり、小さな声が大きな相手を動かすこともできることを示唆しています。
オピニオンなのか? ファクトなのか?
僕はさまざまな方々を対象に、「オピニオン」なのか、「ファクト」なのかを見極めることが大事だとも伝えてきました。オピニオン、つまり個人の意見の場合、真っ二つに分かれてしまう傾向があることは問題です。特に政治がテーマだと、敵か、味方か、の対立構造になることが多いですね。政治テーマに限らず、国や人によって立場も違い、多様化した社会で、「正解は一つ」という姿勢では、不毛な議論に終わってしまいます。こうしたオピニオンに潜む危険性を知っておくことは大事なことです。
また「アメリカは」「中国は」「イスラム教徒は」といった大きな主語で語ってカテゴライズすることで、ファクト、つまり事実が語られず、余計な対立や誤解を招きやすくなります。事実を伝えるためには小さな主語で語ることが必要なのです。
もっと身近な例を挙げれば、災害のあった地域のことを伝える際、「被災地では」という大きな主語を使い「大変な状況です」と語ると、それはあくまで伝える人のオピニオンになります。昨年起きた熊本地震でも自宅が全壊した人もいれば、ほとんど被害のなかった人もいます。「熊本県の、益城町(ましきまち)の、◯◯さんは」と主語を小さくして語れば、それは事実となります。
ただし、事実という言葉にも気をつけなければなりません。今年1月のドナルド・トランプ大統領就任式について、ショーン・スパイサー報道官が「就任式に集まった人数は史上最大だった」と発言しました。すぐにワシントンポストなどがオバマ前大統領の就任式の写真と比べ、ファクト・チェックをしました。その後NBCの報道番組で矛盾を指摘された大統領の側近であるケリーアン・コンウェイ大統領顧問が「alternative facts(オルタナティブ・ファクト:もう一つの事実)だ」と反論、さらに物議を醸しました。
事実は歪められることもあり、事実とする根拠を何にするかで変わることもあるのです。
考え続けることこそが大切
僕が懸念しているのは、人々が飛びつきやすい話題に多くのメディアが追従し、それ以外の大事な問題が報道されないという現状です。本当に伝えるべき事実や情報が伝わらない、発信力が弱い本当に困っている人たちに目が向けられていないのです。この現状を何とかしたくて、4月に新しく「GARDEN Journalism(ガーデン・ジャーナリズム)」を立ち上げました。「被災地の人々は」「貧困家庭の子どもたちは」といった大きな主語ではあまりにも漠然として、何をしたらいいのかわからないと思っている人は少なくないと思います。もっと小さな主語で事実を伝える、社会問題に向き合い活動している現場の人たちの真実の姿を紹介することで、自分に何ができるかを一緒に考え続けていきましょうというプロジェクトです。
「post-truth」時代には、この「考え続けること」が最も大切なことです。
目の前の情報をすぐに本当だと思わず、事実を探求し続けることが真実に近づく解決策だからです。意見の違う相手に対しては、まず自分と違うということは、自分が持っていないものを持っているということであり、同じであることより価値があると考えてみてください。その上で違った意見に至った理由などを聞いて、考えてみる。そうやって事実を積み重ねることが対立をやわらげることにつながると思います。
そして、真実は時間の経過でも変化します。昨日まで真実だったことが、明日は真実でなくなることもあります。だからこそ私たちにとって、いつまでも考え続けることが必要なのです。