この検査の導入に対し日産婦では、検討委員会が設置されて審議を重ね、十分なカウンセリングの実施などを条件に、医師の資格だけでなく、医療施設の資格としての認定・登録の制度を作りました。厳しい資格制度であるため、当初は全国15施設のみでの認可施設で、2013年4月にスタートしました。
2018年3月現在、全国の認可施設は90施設に増えました。それでも、新型出生前診断を受けたいと考える人たちが増えているのに対し、対応が追いついていないようです。
他にも様々な問題が
日産婦では、代理母出産を自主規制しています。
その背景には、まずリスクの増幅の懸念があります。妊娠、出産自体が様々なリスクを伴うものである上に、ホストマザーの場合、遺伝的相同性をまったく持たない受精卵で妊娠、出産することもあります。代理出産によるリスクの解明はされていないものの、影響があると考えます。また「借り腹」という言葉が象徴するように、他人の子宮であること、他国に代理母を求める「代理母ツーリズム」が行われていることなどに対しての倫理的問題もあります。
他にも、生まれてきた子どもを代理母が引き渡さない、生まれた子が障害児であったため依頼者が引き取りを拒否するといった問題が実際に起きています。
凍結受精卵や凍結精子に関しては、離婚した後や夫が死んだ後に、妻が人工授精して子どもを産んだケースがあり、生まれた子どもと夫の間で親子関係が成立するのかが問題になり、裁判にまでなりました。
最大の懸念は卵子の凍結保存
私が個人的に危惧していることに、卵子の凍結保存があります。
女性の社会進出が増える中、仕事が一段落してから妊娠しようと考える人も増えています。すると卵子が加齢して妊娠しにくくなったり、胎児が障害を持ったりする可能性が高くなります。女性の立場で考えると、若いうちに卵子を凍結する選択をする人が出てくるのは自然の成り行きでしょう。子宮は卵子に比べてゆっくり加齢しますし、ホルモンの使用により若返りを図ることも可能で、60代で出産したケースも海外ではあります。
これは、もはや不妊治療ではありません。それに若い卵子だからといって確実に妊娠できるとは限りません。
また、企業や組織が仕事の効率を優先し、社員の卵子凍結を奨励するような動きにもつながり、妊娠に向けての自己決定が脅かされることにもなりえます。
日本でも早期に法制化を
今後も生殖補助医療はさらに発達し、様々な問題が発生して複雑化することでしょう。それに伴い、生殖補助医療に対する法整備はますます必要不可欠になります。
前述したように、海外では1980年代に体外受精が広まると同時に、法整備に向けた議論が行われました。たとえばイギリスでは90年に「ヒト受精・胚研究法」が、ドイツでも同年「胚保護法」が制定されました。フランスでは、6年の議論を重ね94年に3つの法律からなる包括的な「生命倫理法」が制定されました。
このように倫理的思考の根底に宗教が深く根ざしている西欧とは異なり、日本では生殖補助医療の技術的な先進性のみが強調され、歓迎されてきたという印象があります。技術が進むまでは打つ手がなかった不妊症の人たちにとっては、「待ち望まれた技術」だったことでしょう。
それでも、今一度踏みとどまって考える必要があると思います。告知の是非や方法など、生まれた子ども側に立った視点も十分ではないように感じています。
海外の流れを見ると、先進国に限ってみても、生殖補助医療のそれぞれの技術に関して認めている国もあれば認めていない国もあり、必ずしも認めることだけが進むべき道ではないのかもしれません。いずれにしても、どういった価値基準に依るかは、それぞれの国民性の中で決めていかなければならないと思います。
生殖補助医療に関しては、これまで日産婦が自主規制を行い、また、最近では国会議員の間で議員立法の方向で進められてきたものの、実現には至っていません。今後は、研究者や医療関係者のみならず、公開シンポジウムなどを数多く開いて、一般の人々の声を聞く機会を増やし、国民みんなで考えて法整備をすることが重要であると考えています。