2020東京オリンピックもあり、外国から来日する人たちがますます増加しそうです。東京の空の玄関口・羽田空港も着陸・離陸がぐっと増える見通し。その飛行ルートが新しくなるって知っていましたか?
「陸から入って陸に出る」
杉下共幸さんは、終の棲家としての閑静な生活環境を求め、2016年8月に東京都港区白金に戸建て住宅を購入し、大阪から引っ越してきた。ところが直後、2020年東京オリンピックまでに、自宅の上空600メートル以下を1分20秒に1便の割合で飛行機が通過し、羽田空港に着陸する計画があることを知る。
予想される騒音は約70デシベル(㏈)。1メートル以内でも大声でやっと会話が成り立つうるささだ。
杉下さんは、すぐに、計画に反対する地元の市民団体「みなとの空を守る会」(以下、守る会)に参加した。そして、以下の計画概要を知る。
現在の羽田空港の離発着便は、原則として「海(東京湾)から入って海に出る」ルートをとる。そうではないと、都心に騒音をまき散らすからだ。
ところが国土交通省は14年7月8日、増え続ける外国人観光客への対応策として、東京オリンピック開催までに羽田は年間3万9000回、成田空港は4万回の増便が可能とする試算を「中間取りまとめ」として出す。それを実現させるのが、「陸(都心)から入って陸に出る」新ルート案だった。
まず「陸から入る」新ルート。
これは、「南風」が吹く「15時から19時の4時間のうちの3時間」に限り、飛行機は埼玉県から南下して東京都に入り羽田空港に向かう。
高度は北区で約1200メートル、新宿区で900メートル、渋谷区で750メートル、港区で450メートル、品川区では300メートル以下と東京タワーよりも低くなり、最後の羽田空港を有する大田区では150メートル以下まで高度を下げ、A滑走路に1時間14本、C滑走路に30本が着陸する。つまり、1日132便が着陸のために都心を低空飛行する。
次に「陸に出る」新ルートだが、これは二つある。
「南風」時の同じ時間帯でB滑走路から1時間に20便が離陸し、川崎コンビナート上空を通過して海に抜けるルート。
そして「北風」時、「7時から11時半の4時間半」と「15時から19時の4時間のうちの3時間」に、C滑走路から1時間に23便が江東区や江戸川区の上空を通って北上するルートだ。
この新しい離発着ルートで、現在1時間平均の離発着回数の最大80回が90回――年間で3万9000回――に増えるという計算だ。
騒音への不安
この計画で、「守る会」が最も恐れるのは騒音だ。
「1日3時間も騒音が絶えないとは。窓も開けられません」(杉下さん)
騒音は渋谷区で70㏈以下、港区で70㏈前後、品川区ではパチンコ店並みの80㏈前後と予測されている。
新ルート直下となる都内各地では「守る会」の他にもいろいろな市民団体が設立され、一様に騒音への不安を訴えている。この不安に対して国交省は「丁寧な説明」をすると述べ、15年から都内各地で説明会を実施した。だがその多くは「オープンハウス型」といって、会場に説明用のパネルを展示し、それを見た住民の質問に係員が個別対応するスタイルだ。私は今年(19年)2月に大田区の京急蒲田駅で開催された「オープンハウス型」説明会に参加した。
会場には、計画を説明するパネルがズラリと並び、大阪伊丹空港周辺などで実際に低空飛行している映像をモニターで見ながらその騒音をヘッドフォンで聞ける機器が設置されていた。私は近くで待機している国交省の職員を呼んでいくつか質問をしたが、その回答を整理すると以下のようになる。
★新ルート周辺における学校や病院など公共施設には防音装置の設置をする。その工事費用は、ほとんどを国が負担する。
★一般民家は防音工事の対象外となる。新ルートではほとんどの地域で騒音は、航空機騒音の基準値の62㏈以下と予測されているからである。