特に、携帯基地局などでは通信インフラ用に予備電源を設置しているところも少なくありませんが、停電が長期間にわたったところでは、台風直撃から数日後に、それまで使えていたインターネットなどの通信機能が使えなくなり、突然、情報が遮断されることになったのです。水道や医療施設の予備電源も同様でした。
個人が災害に備える場合、一般的には、電源は1日分、食料や水などは2日分を用意しておけば、支援までつなげることができると言われています。しかし、15号後の千葉県では停電が長期化し、自衛隊による出動や支援も遅れました。この原因は、東京電力の見通しが甘過ぎたからだと、私は考えています。東京電力は、復旧の目途について、きちんと「わからない」と伝えるべきでした。気象予報においては、「わからない」という宣言は、情報として非常に重要です。専門家がわからないと言えば、政府や行政は事態を確認するために自ら動き出しますし、人々は新たな情報に耳を傾けるようになるからです。もし東京電力が千葉の停電被害の状況を把握できていないのだと発表していれば、自衛隊などの出動も早まったのではないでしょうか。
台風19号と「高齢化」「過疎化」「都市化」
2019年の台風による被害において特に目立った問題点が「高齢化」でした。独自に調査してみた結果、台風19号では、死者の4分の3が60歳以上で、60代と70代が突出していることがわかりました。このうち約3分の2が男性で、主な理由は、自家用車で家族を迎えに行く途中、車ごと濁流に飲み込まれたというものでした。19号が接近してきた夕方から夜にかけての時間帯に家にいて、孫の迎えを頼まれたのが、この年代の男性だったのではないかと考えられます。これは「過疎化」とも重なっています。公共交通の乏しい地域では、避難の際にも自家用車を使う人が多く、それにより亡くなられたケースも多かったようです。
一方、都市部では、「都市化」により、「内水氾濫」が多発しています。これは、豪雨によって雨水処理が追いつかなくなり、市街地にあふれ出て、建物や土地、道路などが浸水してしまうという水害です。また、高層ビルやタワーマンションの多くは、重量のある電源設備を地下に設置しているため、台風19号では、浸水により電源設備が水没し、大規模停電と停電に伴う断水が発生しました。
ここからは、これら現代型の災害に対し、私たちはどのような防災手段を講じるべきなのか、考えていきましょう。
防災スキル①浸水被害には「垂直避難」!
まず、浸水被害に対しては、私は、「垂直避難」を推奨しています。垂直避難とは、遠くの場所に避難する「水平避難」とは異なり、現在地点から離れずに、家の2階や3階、近くのビルの屋上などできるだけ高い場所に移動することです。
1947年9月に発生した「カスリーン台風」では、利根川や荒川などの堤防が決壊したことで流域が広く浸水し、特に河口に近い東京都東部では葛飾区、江戸川区、足立区の3区が甚大な浸水被害を受けました。そのため、今回の台風でも、海抜ゼロメートル地帯に位置する足立区などでは、一時、全域に避難勧告が出されました。しかし、実際には、電車の計画運休などにより、遠方に逃げることができないケースもあります。このような場合は、できるだけ高い場所に垂直避難することが有効です。
これは過疎地でも同様で、台風が接近してから車で水平避難を試みても間に合わず、亡くなられた方がいることはすでに述べたとおりです。水平避難をするならば、風雨が強まる前にできる限り早く、浸水が始まったならば、遠くの避難所ではなく、少しでも高いところを目指してください。
ただし、ビルの上階への避難については、日常的な防犯の観点からも、不審者と避難者が分けられるように、予めルールを決めておくことが不可欠です。例えば、和歌山県などでは、津波が発生した際、誰でもが近くのビルの屋上に避難できるように、外階段を設置した場合、それに対して、補助金を出しています。外階段を設置することで、ビル内に知らない人が侵入するのを防ぐことができます。外階段がなくとも、学校などが近隣のビルと協定を結び、万が一の際には、生徒をビルの屋上に避難させるようにしてもよいでしょう。
また、東京、大阪、名古屋などの大都市は、すべて沿岸部の低い土地にあります。その方が交通の便が良いため、物流も発達しやすく、生活しやすいからという理由で歴史的に発展してきたのです。反面、これらの土地は水害のリスクが高いという短所も持っています。とはいえ、日常生活における利便性は捨てがたいものがありますから、いつかは水害が起こるとわきまえ、常日頃から避難場所などを知り、備えておくことが大切です。
防災スキル②自分自身の「防災袋」を用意しよう
さて、避難には、「一次避難」「二次避難」があります。命を守るため、まずは、緊急避難所やビルの屋上などに避難することを一次避難といい、被災後、復旧までの間の避難を二次避難といいます。台風ならば数日で済む一次避難とは異なり、二次避難は長期間に及ぶことが多くなるでしょう。そのため、災害時に備えて、実家や親戚の家など二次避難の場所を予め決めておくことをお勧めします。
また、一次避難の際、すぐに持ち出すことができる「防災袋」の用意も怠ってはいけません。緊急時、大荷物を持って避難することはできません。防災袋の中に入れられるものは限られます。そこで、私は、「これがないと一日たりとも我慢できない」という感覚を判断基準にすることを勧めています。例えば、乳幼児の場合は粉ミルクや液体ミルクがなければ生きていられません。持病のある方であれば、薬が不可欠です。視力の弱い方は、メガネがないと生活できません。また、甘党で「甘いものがないとイライラしてしまう」という人であれば、甘いお菓子は必須となるでしょう。要するに、市販の防災袋をそのまま使うのではなく、自分の基準で自分だけの防災袋を作っておくのです。
ある幼稚園では、子どもたち自身に防災袋を作らせていました。大好きなおもちゃや、これが傍にないと眠れないといったぬいぐるみなど、いざというときにどうしても持って逃げたいものを自分たちに選ばせるのです。
逆に、市販の防災袋の中に入っているものは、食料、水、簡易トイレなど、災害時、真っ先に救援物資として運ばれるものが多いため、当座必要な量さえ持てば、大量に防災袋に入れておく必要はありません。
私の場合、いざというときのために、90代の両親に携帯電話を渡しています。普段、両親は、携帯電話を持ち歩くことはなく、使い方も知りません。