しかし、災害時には、私の携帯電話の番号を書いたメモと一緒に防災袋の中に入れて持ち出してもらうようにしています。それにより、避難先などで、周囲の人に両親に代わって連絡をお願いすることができるというわけです。
「いつ自分が被災するかわからない」ということを肝に銘じ、万が一の場合には、すぐに防災袋を持って避難できるように用意しておくことが重要です。
防災スキル③自分が住んでいる地域を知ろう
また、防災対策の第一歩として、まずは、自分が現在、住んでいる土地の歴史を自分で調べるということも大切です。国土地理院では、明治時代の地図なども公開しています。明治政府は、「国家の基本は地図である」と考え、国家を作る際、地図の整備から始めました。そのため、約100年前の古地図などが結構残っているのです。それを見れば、現在、自分が住んでいる土地が、以前はどのような場所だったのかがわかり、水害の潜在リスクなどを知る大きな手がかりになります。
ちなみに、私がよく感じることは、家の購入は人生における最大のイベントの一つであるにもかかわらず、その土地に関する情報を、自分で調べる人が少ないということです。物件が「割安」「お得」だと感じたら、何か事情があるかもしれないということを、よく覚えておきましょう。
例えば台風19号で甚大な被害を出した神奈川県の武蔵小杉駅とその周辺は、平地であり、数多くの路線を利用することもできる、平常時であれば非常に便利な住宅街です。しかし古地図を見ればすぐわかるのですが、ここはかつて多摩川の流路で、開発前は沼地だったのです。家を売りたいデベロッパーを信じすぎず、自分たちで確かめることを忘れてはいけません。
自分が住む地域について知るためには、学校での防災教育も非常に重要です。ここで、私自身がお勧めする防災教育を紹介しましょう。それは、子どもたちに、通学路を中心に、周辺地域に危険な場所がないかどうかを調べさせ、その結果を基に、防災マップを作らせるというものです。それにより、いざというときに、迅速かつ適切な行動を取ることができます。また、和歌山県のある小学校では、「海抜〇〇メートル」というプレートの設置を手伝う取り組みを行っていると聞きました。それだけで、子どもたちの防災に対する意識が高まります。社会科や地理の授業でも、防災の話題をどんどん取り入れ、家庭にフィードバックしていけるようになっていってほしいと思います。
防災スキル④ハイテクとローテクの組み合わせで災害を乗り越えよう
これら事前の備えのほか、災害時には、情報リテラシーがとても重要になります。インターネット上には、気象庁や国土交通省などによる最新情報や詳細情報が、随時アップされます。携帯電話やスマートフォンを使ってインターネットにアクセスできる人にとっては利便性が高いサービスですが、インターネットを使うことができない高齢者などには、その情報は届きません。そのための対応策として、私は、家族やコミュニティの中で、得意な人が苦手な人をサポートすることを推奨しています。例えば、お孫さんが祖父母に安否確認をかねて、電話して情報を伝えてあげることなどです。これには別の効果もあります。億劫がって避難しようか迷っている場合でも、孫に「危ないから」と背中を押されれば、避難してくれるかもしれません。
また、ハイテクを駆使してインターネット上から最新情報を収集してくることも重要ですが、ローテクも重要です。例えば、電源設備が乏しい避難所などでは、壁新聞が最も有効な情報伝達手段となります。自分が知っている情報を壁新聞に書き込んでいき、周囲の方々と情報を共有するのです。
また、オール電化の家庭では、停電に備えて、ロウソクやガスコンロ、ガスボンベを用意しておくことも重要です。断水の際にも、雨水などを煮沸すれば、飲料水として使えます。このように、テクノロジーのみに頼るのは危険であり、ハイテクとローテクの両方を補完的に組み合わせることがポイントです。
「ついで防災」も重要なスキルです。これは、何かのついでに防災に備えるということです。例えば、キャンプ用のアウトドア用品はほとんどが防災に使えます。テントは避難所で、炭やガスは炊き出しに、といった具合です。ただし、持っているだけで、いざというとき使い方がわからないのでは意味がありませんし、炭やガスが足りない!ということになってもいけません。家族や友人とキャンプに行って、テントの組み立て方、炭のおこし方を何度も確認して身に付け、さらに、バーベキューセットなどは使い終わったらきれいに整備しておくこと、そして、消耗品は必ず新品を補充しておくことが大切です。
「ついで防災」のよいところは、使い慣れているので、緊急時にも慌てずに済むという点です。また、いかにも防災グッズといったものでなく、おしゃれなデザインのものを選ぶことで、普段使いを楽しんでもよいでしょう。生活の中で、遊びの中で、防災のスキルを磨けるのです。
最後に、「知恵の備蓄」についてもお話ししましょう。私は、被災によるさまざまな経験に基づき得た知恵をためておくことを、「知恵の備蓄」と呼んでいます。ここまで述べてきたような「知恵」は、すべて体験や経験を通して得たものであるため、いざというとき、必ず役立ちます。さらに、これをより多くの人々と共有することで、災害に備えるのです。
自然災害はいつどこにやってくるかわかりません。自分だけは大丈夫などと決して思うことなく、常日頃から防災対策を怠らないように心がけましょう。