自分ができる一番有意義なこと、と言い放った植松被告
さて、2月5日の法廷では、二人の被害者家族からの質問があった。一人は事件で亡くなった甲Eさん(女性・当時60歳)の弟。もう一人は事件で怪我をした尾野一矢さん(46歳)の父・剛志さんだ。ちなみに「甲Eさん」というのは被害者の多くが匿名を希望しているからで、法廷ではこのような名前で呼ばれている。
姉の遺体と対面した時の話をしながら涙を拭い、どうして殺したのかと問いかける男性に、植松被告は淡々と言った。
「意思疎通のとれない方は、社会にとって迷惑になっていると思ったからです」「殺したほうが社会の役に立つと思ったからです」
男性が「(あなたの)コンプレックスが事件を引き起こしたのではないですか」と問うと、植松被告は答えた。
「あー……確かに、えー、歌手とか、野球選手になれるならなってると思います。自分がなれる中で、一番有意義だと思いました」
ポロッと出た本音に思えた。が、歌手や野球選手というキーワードは、30歳になった男性が持ち出すものとしてはかなり幼く思えた。この件については、翌6日の法廷で被害者側の弁護士に以下のように質問されている。
弁護士 昨日、コンプレックスが事件を起こした、野球選手になれば事件はなかったということでしたが。
植 松 そうだと思います。
弁護士 人前に出たり、注目されたいということですか?
植 松 人前や注目じゃなくて、楽しそう。
弁護士 楽しそうだと事件を起こさなかった?
植 松 こんな事件に興味なかったと思います。
弁護士 あなたの人生楽しくないから事件を起こした?
植 松 そうではなくて、楽しみたいから思いつきました。人の役に立つことを。
弁護士 有意義な人生を別の形で送れていれば、事件を起こさなかった?
植 松 興味なかったと思います。
甲Eさんの弟の後に質問したのは尾野剛志さんだ。
「今、幸せですか」と聞かれ、「幸せではありません」「あーどうだろう」「面倒だからです」と答えた植松被告は「今のはちょっと失礼だな、不自由だからです」と言い直した。施設に勤務し始めてすぐの頃は「障害者はかわいい」と言っていたのに「必要ない」という考えに変わったのはなぜか、という尾野さんの問いに、植松被告は答えた。
「彼らを世話している場合ではないと思いました。社会に不幸な人はたくさんいるし、日本もそれどころではないと」
なぜ、それが正しいと思ったのか、その根拠について聞かれると「お金と時間を奪っているからです」。
翌2月6日の公判は、被害者側の弁護士からの質問だ。裁判を前に家族が実名を公表した美帆さん側の弁護士が質問する。美帆さんは、植松被告に刺され、19歳で亡くなった女性だ。
美帆さんは人に幸せを与えていなかったと思いますか? と問われ、「そこだけ見ればそうかもしれませんが、施設に預けていることを考えれば負担になっていたと思います。お金と時間を奪っている。それで幸せになってはいけないと思います」。葬儀に多くの人が来たことに触れ、美帆さんがいることを喜ぶ人がいなかったと思うか? と聞かれると、「喜んではいけないと思います」と答えた。
弁護士 あなたは美帆さんが人間でなかったと思うんですか?
植 松 人間として生活することができないと思います。
弁護士 人間と考えるべきでないということですか?
植 松 そういうことです。
法廷では、植松被告の両親についても被害者側の弁護士に質問された。植松被告は自分の親のことになると「言う必要はないと思います」など口をつぐむことがある。「自分は愛されて育ったと思いますか」と聞かれると、言った。
「比較的、いろいろ手をかけて頂いたと思います。学習塾、部活動、不自由なく生活させてもらいました」
一方、親が障害者になったら殺すのかという主旨のことを問われると「自分で死ぬべきだと思います」「そうなったらおしまい。安楽死させられても仕方ない」。(「あなたが手を下す?」と聞かれて)「家族任せは心理的負担が大きいので医者がすべき」と答えるのだった。
全身にみなぎる「万能感」
2月5、6日の法廷での一つのキーワードは「共生社会」だった。
事件を起こしたことで、社会はあなたの考えるようになったか? と問われた植松被告は「キョウセイ社会に傾いたので、やっぱり無理だよね、となればいいと思います」と言った。
キョウセイ社会? 共に生きる、ですか? と裁判官が確認したほどに、その言葉は植松被告にそぐわなかった。が、翌日もこの言葉について補足している。
「共生社会を目指す方向にいったのが、ある意味一歩前進したと思います。安楽死を認める上でそういう段階を踏まなくてはいけない。共生社会になれば現実的でないと分かる。実践として無理だったと分かる」
共生社会という奇麗ごとはどうせすぐに破綻する、その結果、安楽死が認められると主張するのだ。また、「犯行前に戻れるとしたら、殺害以外の方法はないのか?」と聞かれると「デモなどしても意味がないと思います」と言った。
さらにこの日は、植松被告が事件後につくった「心失者」という言葉にも触れられた。彼は意思疎通のできない重度障害者を「心失者」と呼んでいるのだが、それ以外の「心失者」はどんな人かと聞かれると、自分に手紙を出してきた殺人犯の話をした。手紙には、「若い女を監禁して殺しまくる小説が面白かった」と書かれていたという。その犯人は、女性を殺したそうだ。
『闇金ウシジマくん』の最終巻
第46集、2019年5月