どんな名医でも見落としは避けられず、診断されるのは氷山の一角だ。
3月25日現在、日本ではクルーズ船を除き、1160人の感染、43人の死亡が確認されている。致死率は3.7%だ。偶然見つかった患者を足がかりに、濃厚接触者を徹底的に探して、陽性者を隔離しても感染拡大は防げない。
厚生労働省は新型コロナウイルス感染症を感染症法の2類相当に指定した。急性灰白髄炎(ポリオ)、結核、ジフテリア、SARS、MERS、高病原性鳥インフルエンザと同じ扱いだ。新型コロナウイルスの発生当初、最悪の事態に備えるという意味で、この対応は妥当だった。そして実際に水際対策を徹底し、「積極的疫学調査」を始めたことも妥当だ。
問題は、状況が変わってもこの方法に固執していることだ。これでは国内で蔓延してもそれに気付けない。感染者を見つけ、濃厚接触者を検査し、クラスター(小規模な感染者集団)を形成していると結論するしかない。呼吸器症状や発熱を呈する患者の95%以上がPCR検査を受けていないのだから、市中の流行状況は分からない。厚生労働省は、現在も国内では感染が拡大していない流行初期という姿勢を変えていない。
3月14日、安倍晋三首相は記者会見で、国内の感染者数が1万人当たり0.06人と、中国や韓国、イタリアなどヨーロッパ各国、中東諸国よりも少ないと説明し、「現時点で、緊急事態を宣言する状況ではない」との見解を示した。日本の世論は、安倍首相のこのような見解を支持している。
3月11日夜、ソフトバンクグループの孫正義代表取締役会長兼社長が、自身のツイッターアカウントで「簡易PCR検査の機会を無償で提供したい。まずは100万人分」との内容を投稿したが、約2時間後には「評判悪いから、やめようかなぁ」と急に撤回した。これはPCRの検査数を増やすことに反対する医師や一般人がSNSなどで反対したためだ。
経緯を振り返って方向修正が必要な時
このような日本の対応は、世界から奇異の目で見られている。3月16日、WHOのテドロス事務局長は「疑わしいすべてのケースを検査をすること。それがWHOのメッセージだ」と記者会見で述べた。新型コロナウイルスの問題では、私は様々な海外メディアからの取材を受けているが、多くの記者が、テドロス事務局長の発言は日本が念頭にあると考えている。
彼らにとっては、PCR反対論者のダブルスタンダードも奇妙に映る。新型コロナウイルスの感染の可能性が低い人にPCR検査を行えば、様々な問題が生じると言うのだが、全く症状がない濃厚接触者にPCR検査を行うことは問題視しない。医学的には説明がつかない。
なぜ、日本政府はここまでPCR検査に反対するのだろうか。それは、PCR検査が増えると困る人がいるからだ。
まずは安倍総理や加藤勝信厚生労働大臣だ。彼らは水際対策や感染管理によって、国内での蔓延は食い止めているという立場を取っている。PCR検査を増やすことで、多くの人が感染しているとが分かれば、彼らの主張が間違っていたことになる。厚生労働省も同様だ。省内で感染対策を司るのは、健康局と国立感染症研究所だ。医師免許を持つキャリア官僚である医系技官が仕切っている。その資質に問題があることは様々な場で論じられてきた。今回、また失態を犯せば、その権限はますます失われる。
「積極的疫学調査」の枠組みは、彼らに様々な権限と予算を与えてきたが、医師の指示に基づき、ドライブスルーなどでPCR検査が実施できるようになると、このような権限は失われてしまう。費用は公費でなく、健康保険で支払われるようになるため予算は削減され、情報を独占することが不可能になる。
新型コロナウイルスの流行から3カ月が経った。既に多くの知見が集積している。このウイルスは感染力が強いが、毒性は強くない。感染症法の2類に分類するような病原体ではない。普通のインフルエンザと同様に扱えばいい。「積極的疫学調査」は中止して、通常の臨床および臨床研究の体制で対応すればいい。これこそ新型コロナウイルスの出口対策に求められることだ。
これまでの経緯を振り返り、方向を修正しなければならない。
2月12日現在
「みらかホールディングス」は20年3月5日には、「新型コロナウイルスの検査を3月6日より臨床検査として受託することとなりました」「これまでも行政検査として本検査を受託してまいりましたが、このたび。帰国者・接触者外来を設置している医療機関等における検査が3月6日より保険適用されることを受け、臨床検査としての受託を開始する」との文書を出しています。
患者負担
韓国の場合、新型コロナウイルスの検査は、確診者(感染していると判明した人)と接触後に症状が出た場合や、感染の疑いがある人の場合は政府が全額負担。自分から望んで検査を受ける場合は約16万ウォン(約14000円)です。希望して検査を受けた場合でも、陽性であれば政府の負担となる。