国内外のデータを集めて冷静に分析
2020年3月11日、世界保健機関(WHO)のテドロス・アダノム事務局長は、新型コロナウイルス(COVID-19)について世界的な流行を意味するパンデミックを宣言した。3月26日15時現在、世界175カ国、地域で47万2076人の感染が確認され、21308人が死亡している(ジョンズ・ホプキンス大学調べ)。致死率は4.5%だ。
感染が拡大し、いまや世界中がパニックに陥っている。トイレットペーパーの買い占めが問題となっているのは日本だけではない。オーストラリア、シンガポール、香港、更にアメリカや英国でも同様の問題が起こっている。
3月17日、アメリカのニューヨーク株式市場は、主要企業で作るダウ工業株平均が、約3年ぶりに2万ドルを割り込んだ。前日の16日には前週末より2997ドル(13%)低い2万189ドルと急落した。下落幅は過去最大だ。
なぜ、こんなことが起こるのだろうか。「広辞苑 」(岩波書店)の【パニック】の項には〈情報のあいまいさによる不安の高まりや煽動者の存在、他者追従傾向の高まり等が、パニックの発生を促進することが指摘されている〉とある。では、新型コロナウイルスのパニックを克復するにはどうすればいいのか。私は国内外のデータを集めて冷静に分析すべきだと考えている。そうすれば、このウイルスの見え方は変わってくる。
最も注目すべきは中国のデータだ。なぜなら現時点では中国での発生例が最も多く、全世界の17%(3月26日15時現在)を占めるからだ。中国疾病対策センター(CDC)は定期的に感染状況を公開している。以下は、このデータを用いて分析したものだ。
致死率が都市によって大きく異なる?
まずは致死率だ。2020年3月25日現在、中国では8万1960人の感染が確認され、3293人が死亡している。致死率は4.0%だ。エボラ出血熱の50%(平均値)、中東呼吸器症候群(MERS)の34%、重症急性呼吸器症候群(SARS)の9.6%には及ばないものの、インフルエンザの0.1%とは比べものにならない。この数字を見る限り、新型コロナウイルスはおそるべき病原体と言ってよさそうだ。
ただ、本当にそうだろうか。私は、このような議論には賛同できない。それは致死率が都市によって大きく異なるからだ。例えば中国国内では湖北省だけが極端に感染者が多く、致死率も高いことが分かっている。湖北省の感染者数は中国全土の83%を占め、致死率は4.6%だ。一方、湖北省以外の感染者数は1万4159人で致死率は0.9%だ(3月25日現在)。これでは全く別の病気だ。われわれは、どちらの数字を信じればいいのだろう。
そもそも、なぜ、このような地域差が生じるのだろう。中国各地の致死率を比較すると内陸部が高く、沿岸部で低いことが分かる。経済的に豊かな都市は感染者も少なく、致死率も低い傾向がありそうだ。
3月4日、北京大学と中国科学院の研究者たちは、新型コロナウイルスは毒性が異なる2種類が存在すると報告した。湖北省武漢市で流行したのは毒性が強いものらしい。このことが湖北省とそれ以外の地域の致死率の差をもたらした可能性があるが、小規模な臨床研究に基づくものであり、多くの研究者は懐疑的だ。
無症状の感染者が大勢いる可能性も
私が注目しているのは都市機能だ。武漢市の都市機能が麻痺したことが多くの死者を出したと考えている。実は、この状況は福島第一原発事故直後の福島県浜通り地方と同じだ。興味のある人はフォーブスジャパンに掲載された拙文「新型コロナは結局どれくらい怖いのか。データが示す『集中すべき対策』」をお読み頂きたい。
中国における新型コロナウイルス感染症の特徴は、高齢者の致死率が高いことだ。中国疾病対策センターのデータでは、50代から死亡率が上昇し始め、70代を超えると急上昇する。では、日本はどうだろう。注目すべきは、クルーズ船ダイアモンドプリンセス号の経験だ。国立感染症研究所によれば、2月20日現在、乗客・乗員3711人中619人(16.7%)が感染したことが分かっている。特記すべきは、陽性者のうち318人(51%)が無症状だったことだ。
もちろん検査時点では潜伏期で、その後、発症した人もいる。京都大学の研究者たちは数学的なモデルを用いて、ずっと無症状の人の割合を18%と推定している。正確なことは、国立感染症研究所の最終報告を待たねばならないが、京都大学の研究者たちの報告を考慮しても、無症状の感染者が大勢いることが分かる。更に、このような人たちも、発症者と同様にウイルスを排出し、周囲に伝染させることが分かっている。
もう一つ注目すべきは、致死率が低いことだ。クルーズ船の乗客のうち合計7人が死亡(3月19日時点)しており、致死率は1.1%だ。このうち5名は年齢が分かっている。4名が80代、1名が70代だ。年齢不詳の2人が70代以上だとしても、70代以上の致死率は2.4%だ。中国の事例よりもはるかに低い。
PCR検査を積極的に導入している国々
このように新型コロナウイルスの致死率については、慎重に解釈する必要がある。では、他国はどうだろうか。3月9日現在のOECD加盟国の人口10万人あたりの感染者数(PCR検査陽性数)と死亡者の割合を見ると、イタリアと中国を除けば感染者数と致死率が逆相関している。
注目すべきは、韓国の存在だ。3月9日時点の人口100万人あたりのPCR検査数は4099件で、日本(76件)の54倍だ。日本はフィンランドの130件やマレーシアの97件よりも少ない。これはPCR検査を後述する濃厚接触者の検査、及び「重症化のおそれがある方の検査」と位置付け、一般臨床の場では行われていないからだ。一方、韓国はドライブスルーなどのシステムを用い、希望すれば誰でも検査できるようにしている。
2月29日の朝日新聞によると、この「ドライブスルー方式」検査は保健所の敷地内で医療スタッフが車の窓越しに綿棒で鼻と口から検体を採取し、自宅で結果を受け取るシステムである。それによって、検体の採取に必要な時間は従来の30分から10分に短縮され、1日に検査できる人数は3倍の60人になったという。
最近では「ウォーキングスルー方式」も始まった。3月17日のTBS NEWSによれば、このシステムでは電話ボックスのようなブースの中に人が入り、医療関係者が外側から手を入れ、検体を採取する。ブース内の圧力は下げられ、検査が終わるたびに消毒され、ウイルスが外部に流出しないようにしている。待ち時間は少なく、この装置をセットしたある病院では、これまで1日10件程度だった検査件数が70件に増えたという。患者負担は約1万4000円。医師の指示があれば国が負担し、なければ自費だ。
2月12日現在
「みらかホールディングス」は20年3月5日には、「新型コロナウイルスの検査を3月6日より臨床検査として受託することとなりました」「これまでも行政検査として本検査を受託してまいりましたが、このたび。帰国者・接触者外来を設置している医療機関等における検査が3月6日より保険適用されることを受け、臨床検査としての受託を開始する」との文書を出しています。
患者負担
韓国の場合、新型コロナウイルスの検査は、確診者(感染していると判明した人)と接触後に症状が出た場合や、感染の疑いがある人の場合は政府が全額負担。自分から望んで検査を受ける場合は約16万ウォン(約14000円)です。希望して検査を受けた場合でも、陽性であれば政府の負担となる。