2008年のリーマンショックのときにも、まず日系外国人労働者が派遣切りにあいました。
当時、派遣切りにあった日本人労働者が住まいをなくし、「年越し派遣村」運動がマスコミの注目を集めました。しかし、こうした派遣村に集まることすらできなかった日系外国人労働者たちは、2009年初めに東京と名古屋でデモに打って出ました。掲げたプラカードには「住居」「雇用」「教育」などの文字が並び、雇用保障とブラジル人学校への支援も求めました。
これに対して政府は「日系人帰国支援事業」と称して、帰国を促したという前例があります。これは帰国を希望する日系人労働者に1人当たり30万円、その家族には1人当たり20万円を支給するというもので、2009年4月から1年間実施され、これによって合計2万1675人の日系人が出国しました(厚労省「日系人帰国支援事業の実施結果」)。
ただし、これには「我が国での再就職を断念し、母国に帰国して、同様の身分に基づく在留資格による再度の入国を行わないこととした者及びその家族」という条件が付けられていました。つまり、体(てい)のいい追い出し策だったのです。
しかし、今回のコロナ禍では、収束するまで、本国への帰国さえままなりません。使用者である企業の責任はもちろんですが、政府や自治体も、こういった派遣切りにあった外国人労働者への支援策を講じるべきです。
移住連にも、日系労働者の多い愛知、三重、静岡など中部・東海地区や、群馬を中心に北関東地区からも相談が来ています。
ただリーマンショックのときと比べると、外国人のコミュニティ内で仕事の紹介をしたり、助け合う動きも出ています。ニューカマー外国人労働者に地力がついてきているな、とも感じます。
たとえば日系ブラジル人の多い群馬県の大泉町では、2020年6月20日に「リスタートコミュニティ支援センター」の発足式がありました。大泉町は人口の2割近くが外国人で、町境には「日本のブラジルへようこそ」と書いた大きな看板が出ているほどです。大泉町の日系ブラジル人たちが、自分たちで助け合おうという活動を始めたのです。この支援センターには家族で寝泊まりできる個室が41室あって、原則として約1カ月滞在でき、その間に行政の福祉部署に橋渡しをしたり、仕事を紹介したり、職業訓練などもしようというものです。
また、もともと日系ブラジル人や日系ペルー人などが多い三重県などでは、労働組合で直接派遣先の大企業に要請行動を行っています。地方自治体でも「定住外国人に対する共生化政策」を行っているところもあります。こうした支援を他の地域でも行うべきでしょう。
33万人もいる留学生のうち8割が働いていたが……
日本には約33万人も留学生がいます(2018年法務省入管調べ)。そして留学生の労働問題も深刻です。
留学生なのに「労働問題」というのも変ですが、実は日本に来ている留学生の多くには、「留学生ブローカー」が介在していて、(私の試算によると)留学生の8割以上が働いているのです。これは欧米諸国では見られない、異常に高い比率です。
留学ビザでも、申請すれば週28時間以内のアルバイトならば働くことが許可されていて、日本社会も留学生の「労働力」に頼ってきたのです。留学生たちが居酒屋やレストランなどの外食産業、宿泊業、コンビニなどの小売業等の産業を支えてきました。日本にこれほど多くの留学生がいるのは、それが理由です。
しかし彼ら彼女らの多くがコロナ禍で職を失い、生活に困窮しています。また、留学生の労働はアルバイト扱いなので、国民健康保険にしか加入しておらず、またそれは社会保険(被用者保険)ではないため、新型コロナウイルス感染症に罹患した場合、そのままでは休業補償が受けられません。
これに対して条例化で救済している自治体もありますが、そもそもは政府が留学生の労働力を期待した受入れ政策をとってきたのですから、国が補償すべきなのです。
ようやく雇用調整助成金の対象に雇用保険未加入者も含むこととはなってきましたが、これもまた、手続きの難しさもあって、外国人労働者への補償には届いていません。
雇用調整助成金の申請を面倒がる企業
配偶者ビザで滞在しているインドネシア人男性は、有名チョコレート会社のパティシエをしています。緊急事態宣言が出た際に、彼は「出勤できません」と会社に言ったのですが、これに対し会社は「だったら有休を使って休んでください」と答えました。
その後、会社は休業。緊急事態宣言の解除以前の5月6日から営業再開を会社は決定します。彼は「緊急事態宣言が続いているので感染するのが心配だから、やっぱり出勤できません」と伝え、「会社に迷惑をかけても申し訳ないから」ということで、退職する意思を示したのです。
すると会社から「給料が過払いだったから返せ」という連絡が来ました。会社は5月いっぱいまでの給料を払っていて、その中で「有休で処理できないものもあったから返せ」と言うのです。
そこで私たちが、「そもそも、なぜ欠勤扱いになるのか」と会社に問い合わせると、回答書が来ましたが、私はこれを見て驚きました。「当社としては将来、会社に継続して働いて協力してくれる人に対して補償いたします」と書いてあったのです。
厚生労働省は、新型コロナに対する特例措置として、「雇用調整助成金」というのを出しています。「①売上げが下がり、従業員を休業させる必要があった ②従業員を計画的に休業させた ③休業させた従業員に休業手当を支払った」などの場合に、企業に対して支払われるものです。
ですから、このパティシエの場合も、会社が欠勤扱いにせず、休業手当を払って、厚労省に雇用調整金を申請すればいいわけです。外国人労働者が働いている企業の多くが中小や零細企業で、この雇用調整金の申請手続きを面倒だと感じて、手続きをしないところが多いのです。
コロナ禍は日本の移民政策を正面から考える機会
建設、外食、ホテル産業などの業界でも、雇い止めや解雇が多く見られます。
東京のホテルなどでは、ベッドメーキングやルームクリーニングをしているフィリピン人労働者が、コロナ禍以降、出勤日数も労働時間も激減して困っています。以前は月に160~170時間働いていたのが、20~30時間くらいに減ってしまって、月収が約3万円前後になってしまいました。
このホテルの総務部長は「雇用調整金の申請は面倒くさいから、やりたくありません」と言ってきました。しかし私は「ぜひ申請した方がいいですよ。雇用調整助成金をもらって、外国人労働者だけでなく社員全員に払えば、全員のモチベーションが上がりますよ」と説得しています。
派遣切り
派遣労働者として働いている人が、契約の途中で打ち切られたり、契約期間が満了となっても更新されずに雇い止めとなったりした場合に「派遣切り」と言われることが多い。
ニューカマー外国人労働者
日本が植民地として支配していた地域から、戦前戦中に連れてこられた人たちを「オールドカマ―」と言うのに対し、1980年代以降に来日し長期滞在する人たちのことを指す。