新型コロナウイルスの感染拡大前、日本には160万人を超える外国人労働者がいた。コロナ禍で本国に戻った人もいるが、日本にとどまっている人もいる。外国人労働者たちは現在どういう状況に置かれているのか。
コロナ禍以前から「残業代の時給が300円」「パスポートを取り上げられて、パワハラやセクハラを受けている」「丸2年間1日の休みもなく働かされている」など、外国人労働者たちは“奴隷労働”と言うべき過酷な状況で働かされるケースも多かった。そんな彼ら彼女らを、NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(移住連)代表理事として長年支援し続け、この6月に『国家と移民 外国人労働者と日本の未来』(集英社新書)を上梓された鳥井一平氏に話を聞いた。
不当に「解雇」を宣告された技能実習生
現在新型コロナによる自粛や休業、倒産などで職を失ったり、収入が激減した人が増えていますが、弱い立場にいる人ほどコロナの影響も大きいようです。特に外国人労働者たち――私は「移住労働者」と呼んでいますが、ここでは便宜的に「外国人労働者」と呼んでおきます――は、ほとんどが非正規雇用、有期雇用なので、その影響をモロに受けています。
2020年2月には、中国人の技能実習生が旧正月(春節)で一時帰国した後、休暇を終えて日本に戻ろうとしたところ、事業主から「解雇された」という連絡が入りました。
「技能実習」というのは1993年に始まった制度で、「開発途上国への技術移転」「母国の経済発展を担う人づくり」という名目で、「実習」させるというものです。しかし現実には、技能実習生らは「労働者」として働いており、技術移転を意識した「実習」などしていない場合がほとんどなのです。「移民、外国人労働者を受け入れる」と言うと、一部の政権支持層から反発を買うので、政府は、これを恐れて、「技能実習生」という言葉でごまかしてきたのです。
実習生は、「効率的に技能を修得するために(中略)一つの実習先で一貫して実習を行う」(2016年4月6日法務委員会での政府答弁)とされ、企業間を移動する権利を認められていません。そして日本に来る際に、送り出し機関の仲介手数料等の多額の借金を背負っています。がんじがらめの奴隷労働構造に置かれ、セクハラ、暴力などの人権侵害、低賃金、様々な問題の温床になっています。
前述の、事業主に「解雇」を通告された中国人女性については、移住連の会員である支援団体が事業主に団体交渉の申入れを行い、私もSNSで発信したところ、解雇は撤回され、「自宅待機」と「技能実習再開」の約束がなされました。
しかし政府のタテマエ通り「技能実習」であるならば、そもそも「解雇」もあってはならないはずです。
技能実習生が来なくなって困った農家
技能実習生を不当に「解雇」するケースがある一方で、コロナ問題で実習生たちが来日できなくなったため、人手不足で困っている産業もあります。農業や水産加工業、建設業などが典型です。こうした産業では、コロナ禍以前から慢性的な人手不足で、技能実習生の「労働力」に頼っていたのです。
2020年4月28日の日本経済新聞電子版に、「嬬恋村のキャベツ農家、コロナ禍で深刻な人手不足」という記事が掲載されました。群馬県の嬬恋村では高齢化による人手不足で、外国人労働者に頼っていたけれど、今春来る予定だった約200人の技能実習生がコロナの影響で来日できなくなり困っている、という内容です。
キャベツだけでなく、多くの農家で野菜の収穫ができず、野菜が畑で腐ってしまう事態になりました。スーパーでも野菜が値上がりしましたが、これは野菜が不作だったわけではなく、収穫して出荷する人がいないからです。
あるホウレンソウ農家は「実習生が1人来ないから300万円損した」と言っていました。それだけ実習生を働き手として頼っていたことを表しています。
コロナ禍で政府の本音がむき出しになった
これまでの技能実習制度では、「実習生」であり「労働者」ではない、というタテマエがあったため、実習生が会社をかわったり、別の職種、業種に移ったりすることは許されませんでした。入国前から、たとえば同じ縫製であっても「婦人子供服製造」とか農業であっても「耕種」と「畜産」とか細かく決められていて、最初に決められた職種以外は禁止されています。実際には「実習」でなく「単純労働」をさせているケースがほとんどなので、これも政府の偽装だったのですが。
本来ならば、会社側が労働者を選べるように、労働者も会社を選べる、というのが健全な労使関係ですし、それは技能実習生をはじめとする外国人労働者にも適用されるべきです。
今回のコロナの影響で、こうした状況が少し変わってきました。コロナで業績が落ちて人手が余った業種から、技能実習生が日本に来られなくなったために人手不足に陥った農業などの業種へ移行をしてもいい、と政府が言い出したのです。
法務省は、「新型コロナウイルス感染症の影響により実習が継続困難となった技能実習生等に対する雇用維持支援」を打ち出し、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により解雇等され、実習の継続が困難となった技能実習生などの外国人労働者が、再就職し、就労が継続できるよう、当面の間の特例措置として、最大1年間の「特定活動(就労可)」の在留資格を許可する、と発表しました。これによって、「技能実習目的」とは何も関係ない職種への転職を許可したのです。
技能実習生に対する支援と言っていますが、受け入れ企業・農家への支援が優先であり、「実習」ではなく「労働力」として期待しているという政府の本音が全部むき出しになってきたと言えるでしょう。
派遣切りにあった日系人労働者への対応
ブラジルやペルーなどからやってきている日系外国人労働者の「派遣切り」も始まっています。
派遣切り
派遣労働者として働いている人が、契約の途中で打ち切られたり、契約期間が満了となっても更新されずに雇い止めとなったりした場合に「派遣切り」と言われることが多い。
ニューカマー外国人労働者
日本が植民地として支配していた地域から、戦前戦中に連れてこられた人たちを「オールドカマ―」と言うのに対し、1980年代以降に来日し長期滞在する人たちのことを指す。