●会員男性は、ゲイが圧倒的多数
カラーズには、どんな人たちがやってくるのだろうか。
「大前提としてまず、異性と性行為ができない人たちですね。しかも、自分のセクシャリティをカミングアウトしておらず、社会に溶け込んで生きている方となります」
男性はゲイが圧倒的に多い。ただし、テレビなどから一般的に思い描くゲイのイメージからはかけ離れている人たちだ。
「ゲイであることをカミングアウトしている人は、異性との結婚に興味がないので、カラーズには来ません。入会相談にいらっしゃる方の中には、男性と付き合ったことも、身体の関係も持ったことがなく、ただし男女どちらに恋愛的または性的な興味があるかといえば男性だ、という方も多いです」
恋愛の対象、性愛の対象も人によりさまざまだ。男性たちは中村さんに、友情結婚への思いを語る。
「田舎は閉鎖的な社会だから、同性と遊べばすぐにバレてしまう。だから、“普通”の結婚をして、静かに生きていきたい」
「セックスの対象は男性だが、恋愛感情は男女どちらにも抱かない。特定の同性パートナーをつくりたいわけではないので、結婚は“普通”にしたい」
「恋愛対象は女性だが、性的欲求の対象は男性のみ。だから、友情結婚しかない」
特定のパートナーがいて、その人の了承のもとに友情結婚を希望する人もいるが、カラーズでは50人に1人くらいと少数だと言う。
「真面目な人が多いという印象です。同性愛者の場合、性的指向の自認が比較的早いんです。同性を好きになることで、自分は異性愛者というマジョリティではないと早い時期にわかる。わかったと同時にそれを隠して生きていこうと思い、他の部分で頑張ろうという意思の強い方が多いように感じます」
なぜ、自身のセクシャリティを隠して生きていきたいか。それは冒頭で触れたように、日本では性的マイノリティであることを、ありのままに受け入れる土壌がまだないからだ。「親を失望させたくない」と語る会員は非常に多い。
「皆さん、基本的に両親にカミングアウトしない、悲しませたくないから、と言いますね。いくらLBGTQへの理解が進んだとはいえ、60代、70代の親世代が息子をありのまま理解するのは難しいですから」
●会員女性の9割はアセクシャルかノンセクシャル
「カラーズを立ち上げた時、友情結婚というのはゲイとレズビアンのカップルを想定していたのですが、女性の場合、圧倒的に多いのがアセクシャル、ノンセクシャルの方で、今は会員の9割にのぼります。レズビアンの方はカラーズでは少数ですね」
アセクシャルとノンセクシャルは、どちらも「無性の」という意味を持つ英語である。性的指向を示す場合には、アセクシャルは性的欲求や恋愛感情を一切抱かない人たちのこと、ノンセクシャルは恋愛感情は抱くものの性行為ができない人たちのことを指して使われている。アセクシャルは、世界人口の1%ほどいると言われている。筆者自身、カラーズの取材で初めて知った存在だった。
「ゲイやレズビアンと違って同性を好きになるわけではないので、アセクシャルやノンセクシャルの方は結婚適齢期が来た時など、だいぶ後になって自己の特性に気づく方が多いです」
男女交際や恋愛感情に違和感はあるものの、いずれ結婚するだろうと思ってはいたが、いざ、付き合うとなると性行為に踏み切れない。手をつなぐことはできるが、キスは無理。ホテルに行ったものの手前で逃げ出す。そういった経験を繰り返してきた女性たちが、カラーズの存在を知ったことで、自身の特性に気づいていく。
「面談の時点では、『恋愛も性行為もしたくない私って、どうなんでしょうか?』と、女性は相談から入る方も多いですね」
中村さんは女性たちに、質問を投げかける。
「初恋の思い出はありますか?」「お付き合いをした方と、セックスができましたか?」
そう尋ねられて、泣いてしまう女性も多い。
「深く傷ついている方もいます。“普通”に恋愛しよう、性行為に応えようと頑張ってきた人ほど、泣いてしまいます」
交際過程で性行為を求められ、それが苦痛で別れ、また違う人と付き合って、やっぱり無理だと気づくことを繰り返した女性たちだ。
意外なことに中村さんのもとには、50代や60代の女性からの問い合わせもくるという。既婚の人もいれば、離婚した人もいる。「どうして今までこんなにセックスが嫌だったのか、腑に落ちました。もっと早く、アセクシャルやノンセクシャルという言葉を知りたかったです」と彼女たちは言う。
女性は結婚するもの、結婚すればセックスするもの。それが「当たり前」だと言われて育ち、結婚生活の中で、意に反して性行為をせざるを得なかった女性たちが、水面下にどれほどいるのだろう。
「一方、性行為の経験が一切ない方も多いです。自分が性的に見られるだけで、気持ちが悪い。キスをしたこともないと。彼女たちは雑誌などでよく特集されている『抱かれたい男ランキング』なんてギャグだと思っていたと言いますね。男に抱かれたいなんて、女性が思うわけがないだろう、と」
おそらく彼女たちはみんな、周囲から「まだいい人と出会ってないから、恋愛・結婚のよさがわからないのだ」などと決めつけられてきたのだろう。「そうではない」と喉まで出かかっても、誰もが恋愛をするものだという「当たり前」が彼女たちの口を塞いできた。
「自分の違和感を誰にも話したことがない、言ってもわかってもらえないからと、皆さん、おっしゃいます」
男性約26.7%、女性約17.5%
出典:内閣府「平成30年版 少子化社会対策白書」第1-1-10図「50歳時の未婚割合の推移と将来推計」
LGBTQ
性的マイノリティのこと。レズビアン(Lesbian、女性の同性愛者)、ゲイ(Gay、男性の同性愛者)、バイセクシャル(Bisexual、両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender、身体的な性別と性自認が一致しない人)、クエスチョニング(Questioning、自身のセクシャリティについて規定しない人、規定できない人、わからない人など)またはクィア(Queer、LGBT以外の性的マイノリティ)の頭文字をつなげた言葉。