恋愛結婚などたかだか、戦後数十年の歴史しかない。実際、祖父母、曾祖父母の時代にはお見合いなどで、恋愛感情を抱くどころか、顔も知らない相手と結婚することも珍しくなかった。にもかかわらず、なぜこれほど、恋愛が「至高」「不可欠」であるかのように奉られているのだろう。少女マンガやドラマの影響なのか、結婚への道は恋愛以外あり得ないような“刷り込み”が未だ、世を覆っている。しかし、人生をともに歩める人を見つけられたのなら、恋愛や性愛が伴っていようといまいと、その価値は変わらないはずだ。「恋愛すべき」という内外の圧力に耐えきれなくなった人にとっては、友情結婚は、驚くほど新鮮な選択肢に映るだろう。
●なぜ、結婚なのか
彼・彼女たちが結婚したい理由は、恋愛結婚とあまり変わらないと中村さんは言う。
「結婚相手に恋愛感情を抱いている 、という点を除けば、一般的な理由と同じです。伴侶がほしい、家族がほしい、親を安心させたい。人によっては世間体、キャリアアップのため。結婚しない人が増えているとはいえ、日本ではまだまだ結婚しないというのはマイノリティですよね。やっぱり、生きづらいんです」
職業によっては、結婚していないことが、昇進や信頼の妨げになることもある。一定の年齢になれば、結婚していないだけで周囲の圧にさらされる。余計なプレッシャーを跳ねのける上でも、「“普通”に結婚する」ことが重要になってくる。
だからといって、カミングアウトして同性婚をしたいわけではない。
「皆さん、“普通”に生きていきたいと言うんです。異性と結婚して子どもをもうけて、家族になる。『自分の親みたいな家族をつくりたい』と言いますね」
そう、子どもがほしいという理由はかなり大きい。男性の9割は、自分の子どもがほしいと望んでいる。女性の場合は年齢の問題もあり、子どもを持ちたいと思うのは7割か8割ほど。
「男性は特に、子どもがほしくなければ、そもそも婚活しないですよね。女性を好きにならない男性でも子どもはほしいと思い、性愛によらない結婚を選ぶわけです」
友情結婚における妊活は、もちろん性行為以外の方法だ。
●交際期間は、話し合い期間
カラーズでは、面談、入会を経てお相手を紹介された後、「話し合い」期間といういわゆる交際期間に入る。
「『話し合い冊子』というガイドラインを作っていて、これに沿って結婚の条件をすり合わせていく時間が交際期間となります」
例えば、恋愛結婚ならおざなりにされがちなことだが、お金に関してはお互いの収入や貯金額、あるいは借金など全てを明らかにする。
「婚前にきちんと話し合うことは、友情結婚に限らず、どんな結婚生活でも必要なことだと思います。生活費、子どものこと、親の介護、冠婚葬祭での親戚付き合い、住居、家事の分担などすべてが、結婚前にきちんと話し合っておかないと、必ずもめるようなことですから」
子どもに関しては、希望するか、しないか。希望するならば、「妊活方法」をどうするか。これこそ、友情結婚ならではの問いだ。
「妊活方法に関しては、一般的な不妊治療と変わりません。シリンジ法(シリンジ=針のない注射器に精液を入れ、膣に注入する方法)や、人工授精など。妊活は時間的、精神的、金銭的に負担がかかるので、妊活方法についてお互いの条件や希望のすり合わせが必須となります」
同居か別居かという選択もあるが、圧倒的に同居を望むカップルが多い。別居を選ぶのは、50組中1組か2組だと言う。
「同居とはいえ、それぞれ個室を持つのが基本ですので、2LDK以上の住居になりますね。共働きが圧倒的ですので、食事をいつも一緒にとるのか週末だけなのか、など話し合います。掃除や洗濯など家事の分担も話し合いますし、光熱費や家賃など家計をどう負担していくかも、具体的に話し合っていきます」
共働きを望む人が多いのは、仕事にやりがいを持って働いている女性が多いこともあるが、婚姻関係がこの先どうなるかわからないため、経済的自立を手放したくないと考えている女性もいるようだ。
「離婚については冊子に書いていませんが、どういったことが起きれば離婚になる、ということは話し合っておいたほうがいいとお伝えします。だから、その項目として『相手にしてほしくないこと』があります。話し合いの過程では、否応なく自分を見つめることになります。好きか嫌いでなく、自分ありきの結婚ですから。なぜ、結婚したいのか、どんな人生を送っていきたいのかなどが、あぶりだされてくるわけです」
話し合い項目に、「LGBT活動について」というものがあるのも、友情結婚ならではだ。
「主にゲイやレズビアン、つまり『同性への恋愛感情や性的欲求がある』方が対象で、『家庭の外に恋人を作るかも』『風俗店にたまには行きたい』などの行為を、『LGBT活動』と呼んでいます。それらの行為について、配偶者として認めるかどうかを話し合います。『知らなくていい』という人もいれば、『しっかり聞いておきたい』という人もいます」
話し合い期間中に、デートの時間も持つようにと勧めている。
男性約26.7%、女性約17.5%
出典:内閣府「平成30年版 少子化社会対策白書」第1-1-10図「50歳時の未婚割合の推移と将来推計」
LGBTQ
性的マイノリティのこと。レズビアン(Lesbian、女性の同性愛者)、ゲイ(Gay、男性の同性愛者)、バイセクシャル(Bisexual、両性愛者)、トランスジェンダー(Transgender、身体的な性別と性自認が一致しない人)、クエスチョニング(Questioning、自身のセクシャリティについて規定しない人、規定できない人、わからない人など)またはクィア(Queer、LGBT以外の性的マイノリティ)の頭文字をつなげた言葉。