労協は準則主義で設立できます。日本の法制度では、協同組合の設立には、行政庁の認可が必要でした(農事組合法人を除く。これを認可主義という)。それに対して、法人設立の要件が整っていれば届け出るだけで法人格を取得できるとするのが準則主義です。
NPO法人は、認可主義と準則主義の中間にある認証主義という形態をとっていて、書類を提出してから認証を受けるまでにだいたい4か月ほどかかるようです。労協の場合は、必要書類をそろえて法務局に届け出さえすれば簡単に設立できます。これは、労協の強みになります。
また、組合員最少3人から設立することができます。役員規定には、3人以上の理事(その中から代表理事1人を選定)と監事1人以上を配置する必要があるとなっているので、組合員3人の場合は、全組合員が理事となり、その他に外部監事を1人以上配置しなければなりません。3人の組合員(理事)で構成する場合は、代表理事を除く2人は労働契約を締結する必要があり、労働者としての実態が必要となります。
さらに、「総組合員の5分の4以上の数の組合員は、組合の行う事業に従事しなければならない」「事業に従事する者の4分の3以上は、組合員でなければならない」という規定があります(第8条)。原則として労協では、組合員にならなければ働くことはできませんが、働かない組合員の存在を全組合員の1/5未満、組合員にならずに働く人も全従事者の1/4未満であれば認めています。
●労協は非営利法人である
労協は、株式会社や企業組合などの営利法人ではなく、NPO法人や一般社団法人などと同じく非営利法人に分類され、営利を目的とした事業は行えません。
一般的な解釈ですが、営利法人は、事業で得た利益(協同組合では「剰余金」という)を構成員に分配することを目的として事業を行います。株式会社であれば、株主への配当がこの分配にあたります。非営利法人は、利益の分配を目的にするのではなく、活動目的を達成するために利益を活用します。非営利法人であっても利益がなければ事業の継続性が保てないので、利益を計上することは全く問題ありません。
組合員の給与は事業に必要とされる経費ですから、もちろん剰余金の分配には当たりません。労協法第3条に、剰余金の配当(従事分量配当)の規定がありますが、これは事業によって過剰な剰余金が出た場合に、事業に従事した割合(労働時間)に応じて組合員に返還するものであり、営利目的の配当とは解釈されません。
4.協同労働でどんな仕事をしているのか?
労協の働き方は、「協同労働」と呼ばれ、これまでNPO法人や企業組合などの法人格を活用して、1980年代から様々な事業が実践されてきました。理解を深めるために、どんな事業が行われてきたのか、【日本労協連・ワーカーズコープ】の活動を例にして、その歩みを紹介します。
【失業者が始めた事業 1980年頃~】
日本で労協を始めたのは「失業者」たちでした。まさに身一つでしたから、医療生協病院の清掃、生協の物流現場などの仕事を協同組合間の連携により委託を受け、事業を始めました。
今でも、こうした仕事は、障害のある人、生きづらさを抱えた若者、高齢者など、働くことに困難を抱える人たちを排除せずに、共に働く=「協同労働」の基軸となっています。
【福祉事業への参入】
2000年4月に介護保険法が施行され、様々な事業者が介護事業に参入しました。ワーカーズコープも法施行に先立ち、全国でヘルパー資格を取得する講座を行い、同時に受講生たちに自分たちで福祉事業所を立ち上げるよう呼びかけました。その背景として、長期の不況により清掃や物流などの委託事業の縮小、打ち切りが続き、自前の事業を起こす必要性が高まったことがあります。
どこかの事業者に雇ってもらうつもりだった受講生たちは戸惑ったと思いますが、総合的に地域の課題解決をめざす「地域福祉事業所」が全国に300か所以上設立され、労働者が事業経営をするという実践が示されました。
【公共サービスの担い手として】
小泉内閣は行財政改革の理念に基づき、「官から民へ」の掛け声に合わせて行政サービスの民間への開放を進めました。2003年には指定管理者制度が導入され、保育園や図書館などの公の施設を民間事業者に管理運営させることが可能になりました。
ワーカーズコープは、公共サービスの民営化に際して、市場化・営利化ではなく、市民が協同して公共を担っていくべきであると、事業者に名乗りをあげました。児童館や保育園、コミュニティ施設などの運営が広がり、子育て事業、障害者福祉、就労支援事業などへ進出しています。
【新しい事業分野への挑戦】
さらに持続可能な社会をつくるため、最近では、第一次産業やエネルギー事業などへの挑戦も始まっています。
放置されて荒れ放題の山に入り、小規模な機械を使って整備して、持続的な森林経営と環境保全をめざす「小規模・環境保全型林業」や、バイオディーゼル燃料(BDF)の製造を行う「協同労働」の事業所も出てきました。
ベストセラーとなった『人新世の「資本論」』の中で斎藤幸平さんは、水や電気など本来は人々の共有財(コモン)であるべきものを営利企業が囲い込んで独占している資本主義社会の不合理を批判し、市民がコモンを取り戻し、共同管理していくために労協(ワーカーズコープ)の仕組みが有効であることを述べられています。
BDF
BDFは、てんぷら油などの植物性の廃食油を再生して作るカーボン・ニュートラルの燃料です。ディーゼルエンジンの自動車を走らせることができ、ドイツを中心に欧州諸国で広く利用されています。