2020年12月に労働者協同組合法が成立。労働者協同組合に注目が集まっている。「協同労働」と呼ばれるこの新しい働き方について、日本労協連・ワーカーズコープで活動を実践してきた利根川德さんに寄稿していただいた。
2020年12月4日、労働者協同組合法(以下「労協法」という)が成立(公布後2年以内に政令で定める日から施行)しました。それ以降、この法律や労働者協同組合(以下「労協」という)についての解説が様々なメディアで取りあげられています。
しかし、労協について具体的にイメージできる方はまだまだ少数であると思います。できる限りわかりやすく労協法、労協の基本的な仕組みを紹介し、社会にどのような変化をもたらすのか考えてみたいと思います。
1.労協法とはどのような法律なのか
労協法は、労協という協同組合組織について規定した法律です。
日本で協同組合といえば、農業協同組合(農協)・漁業協同組合(漁協)・森林組合などの第一次産業の協同組合や生協(コープ)を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。こうした協同組合は、一つひとつに根拠となる法律が定められており、その法律に基づいて設立されています。たとえば、生協は消費生活協同組合法、農協は農業協同組合法が根拠法となります。
これまで日本では、ワーカーズコープやワーカーズ・コレクティブなど、実態として労協を運営してきた団体がありました(下記、表参照)が、労協には根拠となる法律がなかったため、任意団体や他の法人格(NPO、企業組合など)を活用して運営してきたという事情があります。
1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が施行され、ボランティア団体や社会貢献団体が法人格を取得できるようになったのと同様に、これまで実態として労協を運営してきた団体が、今回の法制定により「労働者協同組合法人」として公的に認められることになります。そして、法律に定められた条件を満たせば、これからは誰でも新たに労協を設立することができるようになるわけです。
2.労働者協同組合とは?
●そもそも協同組合とは?
そもそも協同組合とはどういう組織でしょうか? 国際協同組合同盟(ICA)が100周年大会(1995年、イギリス・マンチェスター)で採択した「21世紀に向けた世界の協同組合の活動指針を示す新しい協同組合原則」によると、「協同組合は、人びとの自治的な組織であり、自発的に手を結んだ人びとが、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じて、共通の経済的、社会的、文化的なニーズと願いをかなえることを目的とする」と定義されています。前述したように、日本で協同組合といえば、生協、農協、漁協、森林組合などが一般的です。
「労協」というと、労働組合と混同してしまう人がいます。労働組合は、厚労省のサイトの定義によれば、「『労働者が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体』すなわち、労働者が団結して、賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るためにつくる団体です」。それに対して、協同組合は「共通の目的を持った人同士が自発的に集まって作る経済組織です。出資金という形で自分たちが元手を出し合い、組合員となって事業を利用し、組合員として運営にかかわっています」(日本協同組合連携機構のサイト)。労協と労働組合は、全く性格が異なる組織です。
●協同組合をつくる
日本では、起業して法人格を取得しようとする時に、通常は株式会社を選択します。非営利の事業・活動であれば、NPO法人や一般社団法人などもありますが、協同組合を設立しようとは普通は考えないはずです。一般的には、協同組合は自分で設立するものではなく、農協や生協のように加入して利用するものだと思われています。
労協は、地域に役立つ事業を行うために設立される協同組合です。労協法の制定により、基本的にどのような事業分野でも協同組合を設立できるようになります(労働者派遣事業だけは事業対象から除外)。福祉など地域に直接役立つ仕事だけでなく、小売業でも、製造業でも、IT関連の仕事でも、法律の規定に反しない限り可能です。これから協同組合は、必要に応じて自分たちで「つくる」ものである、と認識されるようになるでしょう。
労協も他の協同組合と共通の仕組みを持っています。協同組合に加入して組合員になるためには出資が必要です。組合員になると、組合の運営に参画し、組合が提供するサービスを利用することができます。労協の場合も、組合員になり働くためには出資する必要があります。働くためにお金(出資金)を出さなければならないと聞いて驚かれる方がよくいますが、協同組合の基本的な仕組みがわかれば理解していただけると思います。
組合員になり運営に参画し利用する――労協における「利用」とは「働く」ことを意味します。こうした労協の働き方は、「協同労働」と呼ばれています。
●海外の労協
日本ではこれまで根拠法がなかったために、労協が一般に普及することはありませんでしたが、諸外国では事情が異なります。先進諸国では、法律に基づいて多様な事業分野で労協を設立できるほうがむしろ一般的です。
イタリアやスペインのように、憲法で協同組合の推進を規定している国もあり、多くの場合、事業分野を特定せずに協同組合を設立するための法律が整備されています。スペインでは、協同組合の80%以上は労協であるとのことです。
BDF
BDFは、てんぷら油などの植物性の廃食油を再生して作るカーボン・ニュートラルの燃料です。ディーゼルエンジンの自動車を走らせることができ、ドイツを中心に欧州諸国で広く利用されています。